2015年2月号 [Vol.25 No.11] 通巻第291号 201502_291001

気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)および京都議定書第10回締約国会合(CMP10)報告 1 政府代表団メンバーからの報告:インベントリ審査の根幹部が確定、各国の目標の評価も始まる〜SB41温室効果ガスインベントリ関連の交渉概要〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2014年12月1〜14日に、ペルー・リマにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第20回締約国会議(COP20)および京都議定書第10回締約国会合(CMP10)が開催された。これと並行して、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第2回会合(第7部)、および第41回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA41、実施に関する補助機関会合:SBI41)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。政府代表団参加者からは温室効果ガスインベントリ関連の交渉について概要を報告する。COPやCMP、ADP、SB(補助機関)の他の事項に関する交渉の概要については、環境省の報道発表(http://www.env.go.jp/press/100131.html)等を参照されたい。

1. 今年4月提出以降の先進国のインベントリ審査に用いるガイドラインの改訂

先進国は京都議定書上の削減約束の観点から三つのグループに分けられる。第一のグループは、EU、オーストラリア、ノルウェー、スイス等の、京都議定書第二約束期間において削減約束を負う国々、第二のグループは、京都議定書は離脱していないものの、第二約束期間において削減約束を負わない、日本、ニュージーランド、ロシア、第三のグループは、京都議定書を離脱したアメリカとカナダである。インベントリ審査に用いるガイドラインは、UNFCCC下のものと京都議定書下のものとがあり、UNFCCC下のガイドラインが京都議定書下のガイドラインの土台になる、二層構造を成している。三つのグループともUNFCCCの批准国なので、UNFCCC下のインベントリの審査ガイドラインの適用対象となる。京都議定書下のガイドラインは、第一のグループに対しては適用されるが、第二のグループに対して適用されるかは法的に整理しきれていない。今次会合では、2013年のCOP19で今年4月以降のUNFCCC下のインベントリの報告内容の変更が決定されたことを受けて、UNFCCC下のインベントリ審査ガイドライン改訂にあわせ(経緯の詳細は、畠中エルザ, 小坂尚史「京都議定書第一約束期間後の技術的な細部も少しずつ明らかに —SB40温室効果ガスインベントリ関連の交渉概要報告」地球環境研究ニュース2014年8月号参照)、上記の第一、第二の国々に適用されるガイドラインについても修正・決定しようとしていたところである。

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写真この後どんどん室温が上昇した仮設テントの議場で開会の挨拶をするプルガル・ビダルCOP議長

審査のあり方の眼目は、UNFCCC下のインベントリ審査ガイドラインの改訂を取り扱う議題下で主に議論された。専門家審査チームが優先して審査する事項は、主要カテゴリ、過去の審査で問題とされたり勧告を受けたりした箇所、改善作業の進捗状況、再計算等がなされた箇所、総排出・吸収量およびそのトレンドに影響を及ぼす課題とすること等が決まった。また、透明性・一貫性・比較可能性・完全性・正確性や、UNFCCC報告ガイドラインの遵守状況の観点から問題を特定し、同一の問題点が3回の審査で続けて特定され、かつその問題点につき改善がみられない場合は、審査報告書に他項目と分けて記載すること等も決まった。これに伴い、京都議定書第二約束期間下で削減約束を負う国々へ適用されるガイドラインの基本方針が整理された。しかし、日本を含む、第二約束期間において削減約束を負わない立場の国への、適用のあり方については、時間がとれず議論が先送りとなり、そもそもの報告すべき情報の内容等とあわせ今年6月のSBSTA42会合で議論することとなっている。その議論を予断はできないが、今回決まったUNFCCC下のインベントリの審査ガイドラインでは、京都議定書下の審査の最大の特徴である、専門家審査チームによる排出・吸収量の強制的な再計算を行う「調整」プロセスが導入されなかったため、今年以降の日本の提出インベントリに対する審査でも本プロセスが適用されない可能性が高い。しかし、すでに多くの国が審査側・被審査側として参加した京都議定書第一約束期間下のインベントリ審査の過程で、審査全体のレベルが引き上げられ、インベントリの出来・不出来に関する共通認識が概ね形成されているため、日本の審査対応実務は、実質的には今までと大きく変わらないものと予想される。

なお、京都議定書第一約束期間の最終年(2012年)の排出・吸収量を含む2014年提出インベントリの審査には、日本から7名の審査官が参加・貢献している(筆者らが所属する温室効果ガスインベントリオフィスからは3名が参加)。これは、先進国ではニュージーランドとともに第1位の参加者数であり、途上国を合わせるとブラジルに次ぐ第2位となっている。

2. 温室効果ガスの二酸化炭素換算値を計算するための共通指標

二酸化炭素以外のCH4、N2O、HFC、PFC、SF6、NF3等のガスを二酸化炭素換算するための共通指標には、現在のところ地球温暖化係数(GWP)が用いられているが、これを全球気温変化係数(GTP)に変更する可能性も含め、代替的な指標について議論が前回SB会合から再開され、今回も続いている。(経緯の詳細は地球環境研究センターニュース2014年8月号参照)ブラジル等は、ワークショップ開催を含め、代替的な指標の使用に関する議論の場を保持したいと提案した。しかし、規定路線となっているGWPの使用中止への抵抗感や、共通指標の変更によって各国の努力による排出削減量の見込みが変わってしまうことへの懸念等から、ブラジル等の提案は支持されず、決裂したため、議論は次回会合にて自動的に継続審議となった[注]。ブラジル等の提案の背景には、2020年以降の新しい法的枠組みを決めるADPでの透明性の議論に本議論を反映したいという意図があり、注視が必要である。

3. 先進国の隔年報告書の多国間評価

先進各国は、昨年の1月1日から隔年報告書(BR)の提出を始めている。この報告書では、排出削減目標の記載が義務づけられており、目標への進捗状況は技術的審査(Technical Review)後に多国間評価(Multilateral Assessment)される仕組みとなっている。(= 国際評価・審査(IAR)、BR・IARの詳細は地球環境研究センターニュース2014年2月号「気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)および京都議定書第9回締約国会合(CMP9)報告」表参照)今次SBI41会合では、12月6日と8日の2日間、多国間評価が行われた。対象は、EUやフランス、イタリア、ニュージーランド、アメリカ等技術的審査が終了している17カ国であった。これらの各国から、温室効果ガスの排出・吸収量のトレンド、2020年目標、目標に関連する前提(人口や世帯数等)・仮定・方法論(対象セクターやガス、GWP、吸収源の取り扱い)、目標への進捗等に関して報告があり、質疑応答が行われた。EUやEU加盟国に対しては、目標や政策への批判等は聞かれなかったが、アメリカやニュージーランドに対しては、気温上昇を2°C以内に抑えるために必要とされる先進国全体での削減量(2020年に1990年比25〜40%削減、IPCC第四次評価報告書)との関係で、目標が低いこと等が途上国から指摘された。アメリカについては、各国から質問が多く出され、また詳細な回答がなされたため、セッション中最長の1時間半が割かれた。

今回初めて開催された多国間評価セッションは、全体として想定よりも穏やかに進んだが、この感覚は途上国側にも共通のものだったようで、閉会時、途上国最大のグループであるG77+中国を代表してボリビアからは、この多国間評価に関して(より厳しい議論を経た、結論文書等の作成を伴う)実質的な結論を出すことになっていないことについて懸念が示された。各国の質疑応答を含め、これらのやり取りの様子は、UNFCCCのウェブサイトにも公開されているので、関心のある方はご覧いただきたい。(http://unfccc6.meta-fusion.com/cop20/events

4. 今後に向けて

今年2月のスイス・ジュネーヴでのADP会合の後、6月にドイツ・ボンで開催されるSB42会合では、京都議定書下のインベントリ審査や温室効果ガスの二酸化炭素換算のための共通指標について積み残し課題等に対応することになる。また、今回開始された先進国隔年報告書の多国間評価の第2回セッションも予定されている。我が国も、昨年秋に技術的審査を終えているため、SB42会合では多国間評価の対象国となる。今次会合では、今後、より実質的議論を求めたい途上国の意向が示され、またインベントリ審査が何年もの審査を経て深化・詳細化していった過程を考えると、多国間評価のプロセスも同様に変化していく可能性がある。SB42会合がその一歩になるか注目に値する。

一方、途上国に対する類似の作業として、隔年更新報告書(BUR)の国際協議・分析(ICA)が予定されている(BUR・ICAの詳細は地球環境研究センターニュース2014年2月号の表参照)。第1回隔年更新報告書の提出期限は昨年末だが、本稿執筆時点(1月15日)で提出しているのはベトナム、ブラジル、韓国、南アフリカ等10カ国しかない。国際協議の前段階の技術的分析(Technical Analysis)は、報告書の提出から6カ月以内、つまり今年の6月中に開始と規定されているため、スムーズに国際協議・分析を始められるよう、他の途上国からの早急な追加提出を切に願うところである。また、先進国の隔年報告書の技術的審査・多国間評価の厳しさが、途上国の隔年更新報告書の技術的分析・国際協議の厳しさの度合いに影響を及ぼすと考えられることから、引き続き注視が必要である。

なお、隔年更新報告書の技術的分析は、過去に例のない、途上国からの温室効果ガス排出・吸収量に関する情報を含む報告事項の分析作業となるため、先進国のインベントリ作成に携わる我々の立場からすると、大変興味深く、また難しい作業になることが予想される。この分析が途上国にとって、真に役に立つようなものになることが望まれる。

上記のSBにおける透明性の確保に関連する細かい議論は、ADPでの2020年以降の新しい法的枠組みにおける透明性の議論と強く関連している。ADPの作業の中から出て来た「気候行動のためのリマ声明(Lima Call for Climate Action)」では、新枠組みを決める今年末のパリでのCOP21の前に(可能ならば今年の3月までに)各国が約束草案を提出すべきとされており、明確性・透明性・理解の促進のために約束草案に含めることができる情報として、基準年等の参照点、期間、対象範囲、仮定や方法論等が示された。知見が蓄積されている先進国のインベントリ審査、立ち上がったばかりの先進国の隔年報告書に関する国際評価・審査等、既存の透明性確保の仕組み、合意されてはいるがまだ走り始めていない途上国の隔年更新報告書の国際協議・分析の仕組みと、ADPから出て来る新枠組み下の透明性確保の仕組みとの間の整合性のとり方や、その整理・統合方法等が今後非常に重要になってくる。特に、持続可能性の観点からは後者は重要である。パリCOPまでに急速に話を詰めることになる可能性があり、注意深く議論を見守りたい。

脚注

  • 議題について各国意見が折り合わず決裂した場合には、自動的に次回会合で継続審議される規則になっている。

略語一覧

  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action: ADP)
  • 科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA)
  • 実施に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Implementation: SBI)
  • 京都議定書締約国会合(COP serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • 補助機関(Subsidiary Bodies: SB)
  • 地球温暖化係数(Global Warming Potential: GWP)
  • 全球気温変化係数(Global Temperature Change Potential: GTP)
  • 隔年報告書(Biennial Report: BR)
  • 国際評価・審査(International Assessment and Review: IAR)
  • 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)
  • 隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)

二酸化炭素の「大きさ」

小坂尚史

宿泊地からCOP会場までバスで移動中、ラウンドアバウト(信号がない代わりに、円形の道路を必ず通るよう設計された交差点)の内側の空き地に巨大な緑の球(写真参照)が据え付けられているのを見つけた。ラウンドアバウトをぐるりと回りながら、この球は何なのだろうと不思議に思って眺めていたところ、これは1トンの二酸化炭素を示すためにCOP開催に合わせて設置されたオブジェだと気がついた。二酸化炭素を理想気体と仮定すると、球の直径はおよそ10mと見積もられる。奥に見える自動車や人と比べると球の大きさが想像できるであろう。

2013年度の我が国の二酸化炭素排出量は13億1000万トン(速報値)であった。これを単純に人口で割ると、一人当たり一年間に10トン(つまり、あの球10個分)の二酸化炭素を大気中に排出したことになる。

一般に二酸化炭素排出量は重さで表現されるが、大きさで示すと排出量をより直感的に理解できるように思う。

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二酸化炭素1トンに相当する球

目次:2015年2月号 [Vol.25 No.11] 通巻第291号

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