2015年2月号 [Vol.25 No.11] 通巻第291号 201502_291007

最新データに基づく地球温暖化問題に関する3連続講義270分間 —上智大学との連携による公開講座報告—

  • 地球環境研究センター 交流推進係

1. 経緯・はじめに

上智大学と国立環境研究所は、環境科学に関する最新状況を学生および一般市民に広く解説するため、平成18年度より連携講座を開講しています。

平成26年度は「環境科学特別講座—研究最前線からの報告—」の講座名で全4回13講座を開講し、地球規模の気候変動問題から東日本大震災に伴う放射能・廃棄物の問題、身近な生物や健康影響の問題などについて国立環境研究所の研究者が分かりやすく解説することとしています。

地球環境研究センターでは、この講座の第3回を担当し、地球温暖化に関する3テーマについて連続講義を行いました。

本稿では講義の内容と質疑応答などについて、実際に使用されたスライドをいくつかピックアップしながら、取材者の感じたことも含めてご報告いたします。連続講義の雰囲気を感じていただき、少しでも「なるほど」と感じていただければ幸いです。

2. 連続講義の内容

連続講義のテーマと説明者は以下のとおりです。

13:30–15:00 温暖化はこうして起こる
野尻幸宏(地球環境研究センター 上級主席研究員)
15:15–16:45 温暖化で地球はどうなる
江守正多(地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長)
17:00–18:30 低炭素社会の実現に向けて
増井利彦(社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室長)
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写真上智大学内の講義室(学生だけでなく多くの社会人が参加しています)

3. 温暖化はこうして起こる

1番目のテーマ「温暖化はこうして起こる」では、地球温暖化の科学的な仕組みの理解から始まり、世界全体のCO2排出が増大していること、そして日本の排出量推移についても最新のデータをもとに説明がなされました(図1)。その後、CO2の地球規模循環、炭素循環の観点からみた温暖化を食い止める対策技術、IPCC報告書と説明が進みました。

図1を見ると東日本大震災以降の節電により2010年以降電力消費量は抑えることができましたが、火力発電の割合が増えたため、CO2排出量は逆に増加してしまいました。

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図1日本における発電電力量とCO2排出量の推移 [クリックで拡大]

図2を見るとどんな分野で排出量が増えてきたかがわかります。運輸部門、産業部門では排出量が減少傾向にあるのに対し、事業所や家庭からの排出は増加しています。2010年以降は、経済の回復と原発停止の影響でCO2排出量の増加が著しいことが示されました。

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図2日本における部門別のCO2排出量の推移 [クリックで拡大]

図3では炭素循環(CO2の地球環境中でのサイクル)を踏まえると、例えば新たに植林するよりは森林伐採を食い止め、かつて森林であったところに植林することが有効であるとの指摘がありました。

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図3温暖化対策の意味を炭素循環の観点から考える [クリックで拡大]

この講義では最新の温室効果ガス排出データに基づく見解が述べられ、聴講者も新しいデータを得られたのではないかと思います。

 

4. 温暖化で地球はどうなる

続く「温暖化で地球はどうなる」では、まず、図4の過去1000年の北半球の平均気温の推移が示されました。これを見ると、1000〜1200年頃は温暖で、1400〜1800年頃はやや寒冷、その後急激な気温上昇が起こっていることが理解できます。温度計のない時代の過去の気温は、木の年輪の幅などから推計するとの説明でした。そんなもので温度がわかるのかと思われる方もいるかもしれませんが、この推計が正しいかどうかは、温度計がある最近の温度データと年輪幅の比較で確認されています。

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図4過去1000年の気温変動(観測と木の年輪幅等からの推計値) [クリックで拡大]

1800年以降のように、これだけ急激に温暖化が進んでくると、いろいろな影響(海面上昇、熱波・洪水など極端な気象の増加、生態系の消失など)が予測され、人間が適応不可能な事態は避けなければならないという認識も生まれます。

世界では、2010年のカンクン合意が国際的な認識とされており、気温上昇を2°C以内に抑えるためには、今世紀後半には世界全体の温室効果ガス排出量を0かマイナスにする必要があることが説明されました(図5、6)。

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図5気候変動対策の長期目標 [クリックで拡大]

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図6「2°C以内」目標を達成する排出削減経路 [クリックで拡大]

さらに、地球温暖化が起きているかどうかを科学が判断することは比較的容易だが、どのように解決すべきかを科学だけで決めるのは難しく、どんな社会にすみたいかといった価値観がかかわってくることが述べられました(図7)。

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図7科学だけで決められるのが難しい程度 [クリックで拡大]

5. 低炭素社会の実現に向けて

最後に、「低炭素社会の実現に向けて」ということで、地球温暖化防止に対応した将来の社会についての研究を踏まえた講義が行われました。

前2講義の復習的な部分もあったのですが、ここでは省略し、日本のこれまでの緩和策の取り組みについてのスライドを紹介します(図8)。2011年3月を境として状況が大きく変化したことがわかります。COP19(2013年)で石原環境大臣(当時)が原発0を前提として2020年の排出目標を2005年比3.8%減と発表しました。これはこれまでの対策低位と中位の中間に位置するレベルとなっています(図9)。

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図8日本における緩和策(温室効果ガス削減対策)のこれまでの取り組み [クリックで拡大]

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図92012年6月に公表した温室効果ガス排出量予測(2020年)と現在の目標 [クリックで拡大]

ところで削減の対象となるCO2は目に見えないので、どのくらい対策したのかわかりにくいかもしれません(図10)。図10は増井室長宅のエネルギー消費をグラフ化したものだそうです。このグラフから、季節変動があるものの、冷蔵庫と照明他の消費電力が大きいことがわかります。また、エアコン・ヒーターのエネルギー消費は夏より冬に大きいようです。また、米国滞在期間中は、同じような生活をしていても日本にいるときよりエネルギーを多く消費していたことも現れています。図11にあるように、将来どのように低炭素にしていくかを考える際は、まず自分の環境負荷を知ることが重要です。何がどんな原因で起きていて、何をしたらよいかを科学的に理解した後は、自分に何ができるのかを考えたくなると思いますが、この資料は参考になるのではないでしょうか。

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図10温室効果ガス排出量の「見える化」からわかること [クリックで拡大]

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図11将来シナリオを作成するにあたって [クリックで拡大]

6. 聴講者からの質問・回答

いくつか質疑応答があったので紹介します。

Q. 温室効果に関してもっとも寄与度の高い水蒸気について何も言及も対策もないのはおかしいのではないか?

A. 確かに水蒸気は温室効果の約半分を占めている。大気中の水蒸気に加えて降水・雪氷・海洋を含む水の循環は、ほとんどすべて気候(気温)で決まり、温暖化に大きな影響を及ぼす。しかし、人間が化石燃料の燃焼で排出する水蒸気量は、これら地球表層の大気・水圏に既にある水の量に比べると無視できるほどに小さく、温暖化に影響することにはならない。他方、二酸化炭素濃度の上昇は、地中の化石燃料を人間が掘り出しエネルギーを得るために燃焼させた結果、追加的に大気に放出されたことにより起きている。したがって人間にできることはCO2、メタン、一酸化二窒素、フロン類など、水以外の主要な温室効果ガスの大気への人為的付加を止めることが、本質的対策と言わざるを得ない。

Q. 各国が発表している今後の地球温暖化対策はシナリオでいうとRCPのどのくらいの値になるか?

A. 一概には言えないが、RCP2.6にはまったく及ばないレベルと認識している。しかしながらRCP8.5を超えるほどではないと思われる。

7. 最後に

90分の盛りだくさん講義を3コマも連続で聴くことは大変で、地球温暖化についてこれだけ集中的に考える機会はあまりないと思います。

今回の講義では最新のデータを使った資料で構成されており、受講者は新しく、身近な知識・情報が得られたのではないかと思います。江守室長が主張したように、地球温暖化問題を科学的な知識だけで解決することは難しい状況です。しかし、科学的な知識を踏まえずに判断することも考えにくいでしょう。

特に、増井室長が指摘したように、自分たちがどの程度の温室効果ガスを排出しているのかを「見える化」する工夫は、対策効果を実感することにつながり、納得した上での行動ができるようになるため、とても重要と考えられます。

今後も研究所では多くの方の考え方や意見を参考にしつつ、必要な科学的知識を提供できるよう、研究や成果の普及に邁進していきたいと考えています。

目次:2015年2月号 [Vol.25 No.11] 通巻第291号

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