2015年4月号 [Vol.26 No.1] 通巻第293号 201504_293001

これからの酸性雨調査の話をしよう —全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会事務局を務めて—

  • 青森県環境保健センター 松倉祐介

1. 地方自治体の環境研究機関による全国調査

地方自治体の環境研究機関(地方独立行政法人及び財団を含む。以下「地環研」とする)で組織する全国環境研協議会(以下「全環研」とする)には、その活動内容に応じて、広報部会、企画部会、酸性雨広域大気汚染調査研究部会、環境生物部会及び精度管理部会の全5部会が設置されています。

その中の酸性雨広域大気汚染調査研究部会は、部会名称のとおり、全環研による酸性雨・広域大気汚染に関する調査研究を主な活動としています。部会組織は、全環研の5支部(北海道・東北支部、関東・甲信・静支部、東海・近畿・北陸支部、中国・四国支部、九州支部)で選任された支部委員、地環研に所属する研究職員の有志である委員及び酸性雨調査について国内の最前線で活躍する有識者により構成されています。

支部委員及び委員は、部会活動の中心である酸性雨全国調査の方針検討や、調査結果の収集・解析及び外部への研究成果の公表を担当し、有識者からは、部会活動に対して専門的な御助言をいただいています。

当部会の主な活動である酸性雨全国調査は、全国の地環研に参加を呼び掛け、平成3年度から全国統一手法(調査内容を随時改定)により20年以上の長きにわたり継続実施しています。

当部会ではこれまでに、湿性沈着(降水成分)及び乾性沈着(大気中ガス・粒子状成分)について得られた全国各地の測定結果から、全国的な濃度分布や季節毎の濃度変動を明らかにしてきました。

2. 今後の酸性雨全国調査について

当部会では、支部委員、委員及び有識者を招聘し酸性雨全国調査等についての議論を行うために毎年度に2回会議を開催しています。去る平成27年2月2〜3日、国立環境研究所(茨城県つくば市)において、平成26年度第2回全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会を開催しました。

本会議では、支部委員、委員、有識者及び部会事務局等の全30名が参加し、現在作業が進行している平成25年度酸性雨全国調査結果の取りまとめ案の検討、平成27年度の部会活動計画等について議事が行われました。特に、今後の酸性雨全国調査については白熱した議論が繰り広げられました。

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写真1会議では白熱した議論が繰り広げられました

酸性雨全国調査は調査目的・調査手法に応じて調査期間を区分けしており、現在の第5次酸性雨全国調査は平成21年度から開始され、平成26年度で調査期間が6年目を迎えました。これまでに集積された測定結果及び解析結果から、第5次酸性雨全国調査に関する目的の達成状況について議論し、新たな調査内容や調査手法の改定案について活発に意見交換がなされました。具体的な内容は今後更に検討することになりますが、数年のうちに第6次酸性雨全国調査として新たな調査を開始する見込みです。

3. 部会事務局としての経験

部会活動全般についての事務を担当するために、全環研の5支部が2年毎に持ち回りで部会事務局を担当することとなっています。平成25年度から平成26年度までは、北海道・東北支部に所属する青森県環境保健センターが部会事務局を務めました。

偶然ですが、平成25年度は全環研事務局も本県が担当することとなり、全国の地環研の中でも特に人員が少ない当所としては、通常の調査・研究業務に加えて、全環研に関する多くの実務をこなさなければならず、多忙を極めた1年となりました。

部会事務局を引き継いだ当初は、部会事務局は部会活動全般を先導し、会議においては議事の取りまとめを行う立場にあるものと考えていました。当部会の組織体制は、人事異動等がなければ基本的に再任される委員及び有識者が多い中で、部会事務局が持ち回りで2年毎に交代します。そのため、酸性雨調査に精通している自治体の職員が事務局を担当する場合を除いて、部会運営のために酸性雨調査について一から勉強するところから始めることとなり、私も委員の方々からたくさんの御指導をいただきました。

特に、会議においては、委員・有識者による専門的な議事が行われるため、初めのうちは、酸性雨調査に関する専門用語の意味がわからず、議事内容を十分に理解できていませんでした。

部会事務局が遂行すべき業務は、酸性雨全国調査・精度管理調査の実施、全環研広報部会が編集・出版を担当している全国環境研会誌への酸性雨全国調査報告書の投稿、毎年2回の会議開催等があり、部会事務局は1年間のスケジュール管理を行いながら部会活動を運営してきました。

特に、酸性雨全国調査や、環境省及び一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センターの御協力により全環研会員機関を対象に実施する酸性雨精度管理調査については、調査参加機関と随時連絡調整を行う必要があります。事務局は調査内容・調査スケジュールを十分に把握しておかなければならず、事務局を2年間務めることで、調査に関する技術的内容を勉強できただけでなく、事務処理経験を積む契機となりました。

また、環境省、国立環境研究所、一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター、全国の地環研の皆様と共に仕事を行うことができ、大変貴重な経験をさせていただき、私にとってのかけがえのない財産となりました。

なお、平成27年度からの2年間は、九州支部に所属する熊本市環境総合センターが部会事務局を引き継ぐこととなります。

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写真2青森県環境保健センター(左三人)から熊本市環境総合センター(右三人)へ部会事務局の交代

4. おわりに

最近の大気環境問題としては、大気中微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染に非常に多くの関心が集まっています。

環境省が示すPM2.5成分測定マニュアルにおける「ガス成分の測定方法(暫定法)」ではフィルターパック法が挙げられています。当部会の酸性雨全国調査では、平成11年度からフィルターパック法による乾性沈着(大気中ガス・粒子状成分)の測定を継続実施しているため、当部会の調査活動が、PM2.5現象解明の一助となる可能性があるのではと考えています。

昨今は各地方自治体における行財政状況が厳しくなり、地環研の研究職員数の減少が進行する現状においても、酸性雨全国調査の参加機関・調査地点数は特段減少することはなく、横ばいの状態が続いています。全国の地環研の御協力により20年以上の長きにわたりモニタリングが継続できており、大変価値のある調査となっています。

また、当部会は全環研内の5部会の中でも、おそらく最も調査研究の色合いが強く、委員・有識者が精力的に部会活動に取り組み、酸性雨・広域大気汚染調査に対しての熱意が溢れていると思います。

歴代の委員・有識者、そして酸性雨全国調査に御協力いただいた地環研の酸性雨調査担当者各位による努力の積み重ねにより、当部会は、これまでに多くの研究成果を世に公表してきました(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain)。

今後も、熱意溢れる委員・有識者の先導の下、全国的な調査を長期間継続していくことで、現在顕在化している大気汚染環境問題、また、新たな大気汚染環境問題に対して、様々なアプローチをしていけるものと考えています。全国の地環研及び関係各所におかれましては、当部会活動の推進について今後とも格別の御理解・御協力をいただけますと幸甚です。

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