2015年4月号 [Vol.26 No.1] 通巻第293号 201504_293004

はじめてのCO2ゾンデ観測 in ボルネオ島

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 主任研究員 寺尾有希夫

地球環境研究センター炭素循環研究室では、森林減少・劣化を原因とする温室効果ガスの排出を削減し、また森林保全等による温室効果ガスの吸収を増強させる取り組み(REDD+と呼ばれています)の効果を評価するために、熱帯の森林地域の二酸化炭素(CO2)吸収量を大気の地上観測から推定する手法の開発を行っています。具体的には、マレーシアの熱帯林を対象に、1) CO2濃度測定装置を多点配置してCO2濃度の水平分布を観測し、また 2) CO2ゾンデを用いてCO2濃度の鉛直分布を観測することにより、森林によるCO2の吸収・排出量の推定を行い、また一方で 3) CO2の炭素同位体(13Cおよび14C)を分析することにより、CO2の排出・吸収源について、生物起源の吸収・排出量と人為起源の排出量を分離して捉える、ことを目指しています。

2015年1月に、当研究室の室長でもある向井センター長、藍川主任研究員、野村特別研究員、寺尾、そして、CO2ゾンデを開発している明星電気株式会社の技術者(澤田氏と長浜氏)の計6名が、ボルネオ島のマレーシア・サバ州のタワウとダナンバレー自然保護区で現地調査を行いました。その目的は、マレーシアでCO2ゾンデを上げることと、現地にCO2連続観測装置を設置することです。我々はこれまでに、北海道・天塩と沖縄県・西表島において、CO2ゾンデ観測を行ってきました。CO2ゾンデ観測については、地球環境研究センターのウェブサイトの記事「CGER探検隊による研究紹介『噂の研究現場』第1回 西表島で風船を飛ばすって!? 森林の二酸化炭素吸収問題(http://www.cger.nies.go.jp/ja/explore/001/)」をご覧ください。CO2ゾンデは、明星電気が世界に先駆けて開発した装置ですが、海外で試験を行ったことはありません。今回は、はじめての日本国外でのCO2ゾンデ観測の様子を紹介します。

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マレーシアでの調査地点(×印。マップの色は標高を表す)。タワウ、ダナンバレー(DMV)、コタキナバル国際空港(KKIA)、クアラルンプール国際空港(KLIA)、パソ

現地では調査チームを二手に分けました。野村・藍川組は、タワウに加えダナンバレー自然保護区に滞在し、CO2濃度連続測定装置の設置などを行いました。昨年設置したマレー半島のパソ森林保護区とクアラルンプール国際空港、そしてボルネオ島のコタキナバル国際空港(野村渉平「熱帯林地域が吸収しているCO2量を知るために」地球環境研究センターニュース2014年12月号をご覧ください)の3台と合わせて、マレーシア国内に我々が設置したCO2濃度連続測定装置は計5台になりました。各地点で順調にデータが得られており、熱帯林によるCO2の吸収・排出を捉えた貴重な大気CO2濃度観測データが蓄積されつつあります。

一方、向井・寺尾・明星電気組は、タワウ国際空港のマレーシア気象局庁舎(写真1)において、CO2ゾンデ観測を行いました。今回調査を行った1月下旬は、雨季の終わりかけにあたります。2月に入ると春節のお祝い(写真5)のために国全体が休日モードになるので、その前に調査を行ったのですが、まだ雨季の名残があり、お昼から午後3時くらいにかけて、毎日雷雨がやってきました。さっきまで晴れていたのに、あっという間に空が雷雲に覆われます(写真4)。雲の中は、上昇・下降気流が大きく乱れているので、ゾンデ観測には悪い条件です。また、ゾンデを飛ばす風船は、高品質で割れにくいのですが、雨や雲を通過して濡れてしまうと、上空で凍ってしまい、割れやすくなってしまいます。1回目のCO2ゾンデ観測は、小雨の中の放球になってしまいましたが、無事に予定高度まで観測することができました。翌日は少し様子がわかってきたので、時間を調整して、雷雲のすきまの空が晴れている時に放球できました(写真2, 3)。

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写真1タワウ国際空港のマレーシア気象局タワウ観測所。通常の地上気象観測、レーダー観測、一日1回の気象ゾンデ観測などを行う他、ダナンバレーGAW(WMO Global Atmospheric Watch)観測所のメンテナンスも担当している

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写真2タワウでのCO2ゾンデ放球。左上から時計回りに2015年1月27日14時(小雨が降ってます)、1月28日7時(5時から動いているので眠いです)、1月28日13時(この後雷雨になりました)、1月29日7時(CO2ゾンデがマレーシア国旗とサバ州旗の間を上昇していきました)

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写真31月29日7時のCO2ゾンデ放球の様子

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写真4雨季の名残で天気が急変します [クリックで拡大]

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写真5タワウの街の海岸沿いにはシーフードレストランが並んでいて、好きな魚を選んで調理してもらえます。このチャイニーズレストランは春節仕様で派手でした

はじめての海外でのCO2ゾンデ観測でしたが、多少のトラブル*を除けば順調で、朝と昼の計4回の観測に成功しました。ゾンデ観測では、通信に使う電波の波長帯が制限されていますし、飛翔物ですので最寄りの航空当局に届け出を行う必要があります。これらの事前、放球直前、事後のゾンデ観測に関するマレーシアでの手続きは、日本と比べ簡便でした。しかし、ゾンデ観測に慣れたマレーシア気象庁職員の方々(写真6)の協力がなければできませんでした。(*ゾンデに妨害電波のようなものが入った、コンセントをつなぐ際のミスで停電した、現地でヘリウムを購入できないかとガス屋を回ったが契約が難しそう、等々)

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写真6協力していただいたタワウ観測所の職員と。我々が2010年からダナンバレーで行っている大気サンプリングも、この方々に協力していただいています

タワウ観測所は海沿いに立地しているため、森林によるCO2の排出・吸収の影響をあまり受けていないデータを取得することができました。平成27年度は、熱帯林のど真ん中のダナンバレーでもCO2ゾンデ観測を行い、タワウとダナンバレーのCO2鉛直分布の違いから、森林によるCO2の排出・吸収の影響を考察する計画です。今回のタワウでのCO2ゾンデ観測は、次回のダナンバレーでのCO2ゾンデ観測へ向けた準備という面もありました。ダナンバレーは山奥にあるため、タワウと比べ設備などに大きな制約があります。アンテナと受信機の位置決め、安定電源の確保、ガス輸送、などなど、今から今年の観測のための準備を進めているところです。

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