2016年5月号 [Vol.27 No.2] 通巻第305号 201605_305001

第6次酸性雨全国調査に向けて

  • 全環研酸性雨広域大気汚染調査研究部会 北海道東北支部委員
    岩手県環境保健研究センター 多田敬子

1. はじめに

地方自治体の環境研究機関(地方独立行政法人及び財団を含む。以下「地環研」という)で組織する全国環境研協議会(以下「全環研」という)では、日本を網羅する酸性雨全国調査を平成3年度から共同で実施しています。

調査主体となっている酸性雨広域大気汚染調査研究部会(以下、「全環研酸性雨部会」という)は、部会長、理事委員、全環研の5支部から選任された支部委員、地環研に所属する研究職員の有志である委員及び酸性雨調査に関する有識者、そして事務局により構成されています。

ここでは全環研酸性雨部会の活動内容及び平成28年度から始まる第6次酸性雨全国調査について紹介します。

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写真1酸性雨広域大気汚染調査研究部会平成27年度メンバー

2. 酸性雨広域大気汚染全国調査

全環研酸性雨部会の主な活動は、酸性雨全国調査の方針検討、全国調査結果の収集及び解析です。

酸性雨全国調査は、第1次調査から第5次調査まで3〜6年毎に、新たな調査目的、調査項目を取り入れながら継続して実施してきており、本調査結果は国立環境研究所・地球環境研究センターの地球環境データベース(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/research.html)等にて公開されています。

これまで、流跡線解析による広域的な汚染物質の移動の評価や各地域における乾性沈着量の評価、また、降水時開放型捕集装置の採用、ガス・粒子濃度測定手法の開発等、日本の酸性雨研究の発展に寄与してきました。特にガス・粒子濃度測定用のフィルターパック法については、本調査で開発した手法が環境省調査及び東アジア酸性雨モニタリングネットワークの標準法として採用されています。

平成21年度に始まった現在の第5次調査では、窒素成分のより高精度な沈着量の把握やバックグラウンドオゾン濃度の把握等を主眼に取り組んできており、平成26年度の調査参加機関は52機関、その調査地点数は湿性沈着調査で67地点、乾性沈着調査で46地点となっています。

このモニタリングネットワークによって、長年蓄積してきたデータからは、様々な解析結果が得られており、毎年、全環研会誌や大気環境学会などの場を通じて、広く情報を発信してきています。

3. 新しいフェーズへ~第6次調査開始

平成28年2月8日〜9日、国立環境研究所において、全環研酸性雨部会の平成27年度第2回会議が開催されました。支部委員、委員、有識者及び部会事務局等27名が参加し、平成26年度酸性雨全国調査結果の取りまとめ状況や平成28年度の部会活動計画等について議事が進められました。

酸性雨全国調査は、これまでの調査で得られた知見をさらに継続的発展につなげるため、平成28年度から新しいフェーズとして、第6次調査に進みます。

本会議においては、まさに4月から始まる調査の実施要領を定めようと趣旨から手法、細部に至るまで、熱い議論が2日間にわたって繰り広げられました。

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写真2, 3酸性雨部会第2回会議にて、新実施要領の制定にむけて議論する委員等

第6次調査では、フィルターパック法による乾性沈着調査において、(1) 従来の4段ろ紙法に加えて、新たに (2) 前段にインパクタを追加した5段ろ紙法、さらには (3) インパクタの追加に加えて、亜硝酸ガス捕集用のフィルタを追加した6段ろ紙法を開始します。

この目的、利点は、粒径別の乾性沈着量データを得ることが出来ること、酸性雨の乾性沈着モニタリングと同時に微小粒子状物質(PM2.5)の通年試料の採取および分析(水溶性成分のみ)が可能となること、並びに窒素化合物の沈着量をより的確に把握できる可能性があることです。

委員が所属する地環研の中には、既にインパクタ採用による5段ろ紙法、6段ろ紙法の実証試験が行われており、今後、データを蓄積、検証していくことで、より詳細で、かつ広域的な酸性沈着の状況把握や原因究明につなげることができると期待されます。

ろ紙の構成(6段ろ紙法の場合) [クリックで拡大]

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A:ろ紙ホルダー B:マスフローメータ C:フローメータ(浮き子式)(オプション) D:流量調節バルブ Eポンプ

フィルターパック法による捕集例

4. おわりに

平成27年度、全環研酸性雨部会北海道東北支部の支部委員となって、内容を十分に理解できず、委員、有識者の熱意溢れた議論に圧倒され続けた1年でしたが、第6次調査に移行という大きな節目に携われたことは技術面でとても勉強になり、貴重な経験にもなりました。

また、調査を実施する一担当者としても、第6次調査という新たな目標が定まり、高いモチベーションをもって業務に臨むことができます。

私の住む岩手県は、東西約122㎞、南北189㎞と北海道に次ぐ面積を誇り、内陸部では北上高地と奥羽山脈が美しい山並みを見せ、沿岸部にはリアス式海岸で知られる陸中海岸が広がっています。その豊かな自然は季節ごとにまったく異なる表情を見せてくれます。

岩手県では、酸性雨全国調査として、盛岡と八幡平の2地点で乾性沈着調査(パッシブ法)を実施しています。そのうち、八幡平は標高830mに位置し、今の時期のサンプリングはスノーモービルに乗って移動しながら実施しています。大自然の中、澄んだ空気にふれていると「広域大気汚染」という言葉は忘れてしまいそうですが、汚染物質の実態を把握し、将来、生態系への影響を未然に防止するという観点からも、この地で信頼性の高いデータを積み上げていかなければと強く感じています。

今後も部会で得られた知識、交流をより深め、広い視野で大気環境汚染問題に取り組んでいきたいと考えます。

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写真4八幡平サンプリング地点より山並み(高倉山)を望む

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