2018年7月号 [Vol.29 No.4] 通巻第331号 201807_331011

最近の研究成果 2016年QBO崩壊に対するエルニーニョと海氷の影響

  • 地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 特別研究員 廣田渚郎

成層圏準2年周期振動(Quasi-Biennial Oscillation: QBO)とは、赤道上空で東風域と西風域が1hPa(高度50km)から100hPa(16km)を交互に下りてくる大気変動である(図a矢印)。非常に規則的な周期の変動で対流圏への影響が大きいため、長期天気予報を行う際にも重要な現象である。このQBOが、2016年2月に1953年からの観測史上初めての特異な振る舞いをした。下りてくる西風の中の40hPa(23km)付近に予測されない東風が現れ、風向きが変わった(図a)。一方、2016年は強いエルニーニョと温暖化に伴う北極海氷の減少が特に顕著な年であった(図b)。データ解析と気候モデル[1]による数値実験から、特異な東風は、主にエルニーニョや海氷減少が関わる大気波動[2]による運動量輸送によって形成されたことが示された。気候変動に伴うエルニーニョの変調や海氷減少によって、QBOの特異な振る舞いは増える可能性が考えられ、長期予報への影響が懸念される。

(a) 熱帯成層圏(10°S–10°N)の東西風(赤が西風、青が東風; m/s)と大気波動による運動量収束(線; 0, ±0.05, ±0.1, ±0.2, ±0.4m/s/day)の高度時間断面図。緑矢印はQBOの西風域と東風域が下りてくる様子を示している。2016年2月(オレンジ破線)から70–30hPaに東風が現れQBO崩壊が始まる。(b) 1980–2016年2月の海氷被覆率(縦軸; 30–90°E, 65–85°N平均)とNINO3.4[3](横軸)。海氷被覆率とNINO3.4は標準偏差で規格化されている

脚注

  1. 気候モデル: 大気海洋などの気候を物理法則に従ってコンピューターでシミュレーションするための仮想的な地球。
  2. 大気波動: 例えば、エルニーニョや海氷減少が大気を加熱することで擾乱が発生し、それが波として成層圏にも伝播する。
  3. NINO3.4: エルニーニョの指標。赤道中央〜東太平洋(170–120°W, 5°S–5°N)の海面水温で、大きい値ほど強いエルニーニョを表す。

本研究の論文情報

The influences of El Nino and Arctic sea-ice on the QBO disruption in February 2016
著者: Hirota N., Shiogama H., Akiyoshi H., Ogura T., Takahashi M., Kawatani Y., Kimoto M., Mori M.
掲載誌: npj Climate and Atmospheric Science, 1:10 ; doi:10.1038/s41612-018-0020-1.

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