2020年4月号 [Vol.31 No.1] 通巻第352号 202004_352001

AGU Fall Meeting 2019参加報告 2 「都市からのCO2排出」編

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 主任研究員 寺尾有希夫

米国地球物理学連合(American Geophysical Union: AGU)Fall Meetingが、2019年12月9日から13日までサンフランシスコのMoscone Centerで開催された。今回は、AGU創立100周年記念の大会ということで、広い会場のあちこちに100周年記念のロゴやブースがあり(写真1)、参加者数も過去最大だったようである。本報告では、都市からのCO2排出に関する研究動向について紹介する(セッション名はGC12H, GC13D: Urban Areas and Global Change および A54D, A51J: Fluxes of Greenhouse Gases and Related Pollutants on Urban Scales)。

写真1 会場の1つに設置されたAGU創立100周年のロゴ

近年、最大のCO2排出源である都市に着目した観測研究が世界で展開されているが、都市における温室効果ガス観測で最も歴史があるのがソルトレイクシティ(アメリカ・ユタ州)である。ソルトレイクシティでは、従来のステーション観測に加えて、路面電車TRAXに観測機器を搭載し、移動体観測を実施している(CO2とメタンに加えて、オゾンとPM2.5といった大気汚染物質も)。Mitchell(ユタ大学)は、ソルトレイクシティを対象に大気観測データからCO2排出量を推定する逆解析を複数パターン行い、どのような大気観測データを使用するとCO2排出量推定の誤差が小さくなるかを評価した。その結果、複数箇所におけるステーション観測とTRAX移動体観測の両方を使った場合が(当然)最も誤差が小さくなるが、TRAX移動体観測のみを使用した場合との差異は少ないこと、また、TRAX移動体観測を除いてステーション観測のみ使用した場合は誤差が増大することを示した。これは、排出量推定の誤差低減には複数のステーション観測より1つの移動体観測が有効であることを示しており、(ソルトレイクシティよりはるかに巨大な)東京で複数のステーション観測を実施している筆者にとって示唆に富んだ結果だった。今後、東京での移動体観測の実現可能性の検討が必要である。また、ソルトレイクシティでの新たな取り組みとして、Googleストリートビュー車を用いた観測結果が紹介された。Googleストリートビュー車はあらゆる路地を走行するため、超局所的な排出源を捉えられることが示された。一方で、1つの独立した埋立地のようなものは捉えやすいが、複数のソースが混在しているようなケースの特定は難しそうであった。

ソルトレイクシティでの観測を立ち上げたLin(ユタ大学)は、彼がリードしているCO2 Urban Synthesis and Analysis (CO2-USA) Networkについて紹介した。アメリカ国内で複数年CO2観測を実施している都市(ソルトレイクシティ、インディアナポリス、ボストン、ロサンジェルス、サンフランシスコ、ポートランド)とCO2-USAが公開しているデータベースの紹介のほか、ステークホルダーとの連携についても講演した。その他、各都市の研究事例については、主にポスター発表で行われた。印象に残ったのは、様々なプラットフォームで、CO2だけでなくメタンを対象とする研究があったことである。例えば、Dickerson(メリーランド大学)は、航空機搭載のキャビティリングダウン分光法(CRDS)観測からメリーランドのCO2とメタン排出量の評価を行い、Foster(スタンフォード大学)は、航空機搭載の可視赤外線画像観測からカリフォルニアの石油精製所のメタン排出ポイントソースの定量化を試みた。Fernandez(ロンドン大学)は、乗用車にメタンとエタン(エタンの発生源は主に化石燃料なので、化石燃料起源メタンの指標となる)濃度分析計を搭載するとともに、大気サンプリングでメタンの安定炭素同位体比分析も行い、ロンドン市内のメタンリークの検出を行った。

筆者らは、環境研究総合推進費1-1909で実施している東京都渋谷区の東海大学代々木キャンパス(代々木サイト)における観測結果についてポスター発表を行った(写真2)(Terao, Sugawara, Ishidoya and Kaneyasu, Simultaneous atmospheric observation of CO2 flux, 14CO2, O2 and CO2 concentrations and aerosol components in Tokyo for partitioning of CO2 flux into emission sources)。代々木サイトでは、防衛大学校と産業技術総合研究所と共同で、CO2および熱フラックス、酸素濃度、CO2の放射性炭素同位体比、大気中のエアロゾル組成といった大気観測を実施している。酸素濃度とCO2の放射性炭素同位体比を用いてCO2フラックスを起源ごとに案分した初期解析結果を報告し、冬季のCO2変動のうち平均で29%が生物起源であること、ガソリンと天然ガス消費には日変動や季節変動が観測されたことなどを示した。このように我々はCO2濃度だけでなく多成分を同時に観測するマルチ・トレーサ観測を推進しているが、別のセッション(B34A: Carbon Monitoring Systems Research and Applications)において、Keeling(スクリップス海洋研究所)が、炭素モニタリングにおける放射性炭素同位体比と酸素観測の利点と欠点をレビューし、マルチ・トレーサ観測が重要であることを講演したことは、大きな励みになった。

都市からのCO2排出量推定には、大気観測の充実に加えて、時空間的に詳細なインベントリマップの開発が必須である。VulcanやHestiaといった高解像度都市インベントリマップの先駆者であるGurney(ノーザン・アリゾナ大学)は、最終日のセッション最後の口頭発表において、彼らが開発したアメリカ国内の都市のインベントリ(大気観測で検証も実施)と各自治体が自己報告しているインベントリには大きな差異があることを示した。研究ベースの排出量推定と自治体が行う排出量推定では、排出カテゴリ区分や推計手法の違いがあることが知られていたものの、トータルの排出量の値が大きく異なることは深刻な問題であり、我々の研究が与えうるインパクト、自治体(政策決定者)との関係など、あらためて考えさせられた。

写真2 筆者のポスター発表

AGU Fall Meetingに関するこれまでの記事は以下からご覧いただけます。

ありえないバーガー

寺尾有希夫

AGU Fall Meetingが開催されたサンフランシスコ・ベイエリアは、アップル、グーグル、フェイスブックなどに代表されるIT企業の一大拠点です。また、IT以外でも尖った企業が数多くあり、我々の温室効果ガス観測分野で画期的なレーザー分光機器を生み出したPicarroやLGRなどがこの地で起業しています。そして、「ありえないバーガー(Impossible Burger)」を生み出したImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)も、ここベイエリアの企業です。

Impossible Burgerは大豆プロテインを原料にした植物肉です。大豆原料といっても豆腐ハンバーグのような物ではなく、味、香り、見た目や食感も牛挽肉そっくりに作られています。これまでImpossible Burgerは高級スーパーや意識の高いレストランで提供されていたようですが、2019年8月から、大手チェーンのバーガーキングのアメリカ国内店舗で「Impossible Whopper」としてメニューに加わり、手軽に食すことができるようになったとのこと(ワッパーはバーガーキングのハンバーガー名)。

そこで、サンフランシスコのバーガーキング・パウエル通り店で通常のワッパーとインポッシブル・ワッパーを食べ比べてみました。インポッシブル・ワッパーは、通常のワッパーより少しだけ脂が少なく、わずかに独特の香りを感じましたが、これは両者を食べ比べたからわかることで、単体で出されたら区別は難しいと思います。私が訪問した時にはインポッシブル・ワッパーを注文する客はほとんどいませんでしたが、これが値段のせいなのか(通常のワッパーより1ドル高い)、嗜好のせいなのかはわかりません。牛肉の生産過程からは多くの温室効果ガスが排出されており(小泉環境大臣のニューヨークのステーキで広く知られました)、植物肉は今後ますます注目されると思いますが、どれくらい普及するでしょうか。

インポッシブル・ワッパー(チーズ入り、白の紙)と普通のワッパー(チーズ入り、茶色の紙)。見た目でも、牛肉のパテと区別がつきません

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