RESULT2021年3月号 Vol. 31 No. 13(通巻364号)

最近の研究成果 GOSAT-2/CAI-2による海洋大気中のエアロゾル光学的特性の評価手法の開発

  • Chong Shi(地球環境研究センター地球大気化学研究室 特別研究員)
  • 中島映至(地球環境研究センター衛星観測センター 高度技能専門員)

エアロゾルは、地球のエネルギー収支の推定や解明においてもっとも不確実性の大きい要素の一つとなっている。また、直接・間接の気候影響を通して、放射過程に重大で複雑な影響を与える。地上観測は空間分布および時間変動の観測に限界があるが、人工衛星によるリモートセンシングは高い時間・空間解像度でエアロゾルの変動を広範囲に観測できるため、もっとも効率的なアプローチと考えられている。

本研究において私たちは、温室効果ガス観測技術衛星GOSAT-2(Greenhouse gases Observing SATellite 2)に搭載した雲・エアロソルセンサ2型(Cloud and Aerosol Imager 2: CAI-2)を用いて、海洋大気中のエアロゾル光学特性を推定するための高速で多目的な逆推計手法を開発した。この手法では、放射伝達計算を行うために人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network: ANN)を導入し、エアロゾルと海色物質を同時に算出するSIRAW(SImultaneously Retrieve Aerosol and Water substances)と呼ばれる最適推定法が使われている。構築されたANNには改良型AI学習法が用いられており、外洋と沿岸域における大気-海洋結合系中の放射伝達を精度良く模倣することができる。

その結果、SIRAWのANN放射伝達プログラムによって、大気-海洋結合系の放射伝達を高効率で計算することが可能になり、エアロゾル(微粒子、粗大粒子、吸収性の黒色炭素)と海色物質との間の関係評価が可能になった。SIRAWの利用可能性を調べるため、実際のCAI-2データを用いてデータ処理を行った。また、大気エアロゾル観測ネットワーク(AErosol RObotic NETwork: AERONET)の地上観測データや、海洋エアロゾル観測ネットワーク(Maritime Aerosol Network: MAN)による船舶観測データを用いて事前に検証を行った。その結果、CAI-2から得られた波長550nm(1nm=10-9m)でのエアロゾルの光学的厚さ(Aerosol Optical Thickness: AOT)は、観測結果とかなり整合していることがわかった(図1)。

また、本研究で開発した手法を、NASAのMODISセンサ(MODerate resolution Imaging Spectroradiometer)の成果物と相互比較したところ、全球海域のAOTと海洋粒子が精度良く推定できていることが明らかになった(図2)。さらに、500mという世界初の高空間分解能で得られるCAI-2の紫外域データは、煤塵の広がりを監視するのに有効と期待されている。

今後はSIRAWを改良し、全球のエアロゾルの光学特性とエ鉛直分布の推定精度を高めたい。また、CAI-2を代替校正したり、CAI-2チャンネルの最適な組み合わせに基づく処理を行うことで、陸域と海洋のエアロゾルをより正確に推定し、地球のエネルギー収支のより詳細な推定や解明に役立てたい。

図1 CAI-2から得られた波長550nmにおけるAOTの地上観測値との比較。(a)後方視 、(b) 前方視、(c)両方向 の放射輝度を用いた推定結果。どのグループでもAOTと地上観測結果はよく整合している。
図2 SIRAWを用いてCAI-2から得られた全エアロゾル、小粒子モードおよび粗大粒子モードエアロゾルのAOT、および海洋中の土砂濃度(a~d)をMODIS成果物(e~h)と比較する。2019年2月10日から15日の期間の事例。海洋の粒子状物質の濃度はMODIS海色成果物から得られた波長443nmにおける微粒子後方散乱係数による。