ココが知りたい温暖化

Q22050年までに排出量半減とは?

!本稿に記載の内容は2010年9月時点での情報です

2050年までに世界の温室効果ガス排出量を50%削減することを2007年のG8サミットで議論したそうですが、京都議定書の6%削減(日本)などの数字に比べ、そのような大幅な削減が議論されるようになったのはなぜですか。

肱岡靖明

肱岡靖明 社会環境システム研究領域 統合評価研究室 主任研究員(現 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 主任研究員)

6%削減は日本に課された短期的な削減目標ですが、50%削減は、長期的な気候安定化を目指した、世界全体で取り組む中長期的な削減目標の一つです。現在、化石燃料消費による二酸化炭素排出量の半分強が大気中に蓄積され、濃度上昇が続いており、気候安定化のためには温室効果ガスの大幅な排出量削減が必要な状況です。このことは京都議定書以前から専門家の間では認識されていましたが、京都議定書の第一約束期間に入り、さらに、国際世論として温暖化の危機についての認識が高まってきたことから、首脳レベルでも共有されるようになってきたのです。

京都議定書の意義—気候安定化に向けた取り組みの第一歩

京都議定書では、2008年から2012年までの期間中に、先進国全体の温室効果ガス[注1]の総排出量を、1990年[注2]に比べて少なくとも5%削減することを目標としています。各締約国はそれぞれの割当量を超えないように削減することが求められています。日本に課された6%削減は、短期的な削減目標といえます。

京都議定書上、排出削減義務を負っているのは先進国のみであり、今後経済成長に伴う排出量増加が見込まれる途上国には削減義務がないため、世界全体では今後排出量の大幅な増加が予想されています。したがって、京都議定書で設定されている削減目標の達成だけでは気候を安定化させることはできません。しかしながら、京都議定書によって、国連の気候変動枠組条約の究極的な目標「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定させること」に基づき、法的拘束力のある具体的な数値目標が設定され、また、国際的に協調して目標を達成するための仕組み(京都メカニズム)も導入されたことは、温暖化問題へ国際的に取り組む第一歩として非常に重要な意義があるのです。

国際政治課題となった「2050年までに温室効果ガス排出量を50%削減」

人為起源による温室効果ガス排出量の主な割合を占める二酸化炭素(CO2)排出量の半分弱が自然(海洋や森林など)によって吸収されているものの、半分強が大気中に蓄積され、CO2濃度上昇が続いています(ココが知りたい地球温暖化「海と大気による二酸化炭素の交換」参照)。大気中のCO2濃度上昇および気温上昇フィードバックのために将来の自然吸収量が現状とは異なる可能性もあるとはいえ、長期的な(2100年以降の)気候の安定化の視点から考えると排出量の大幅な削減は必須であり、2050年半減はCO2削減の観点からひとつの中長期的な道標となりえます。

したがって、温暖化を防止し気候を安定化させるためには、京都議定書の目標達成後もさらに温室効果ガスを削減していかなければなりません。このことは京都議定書以前から専門家の間では認識されていましたが、京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)に入り、さらに、国際世論として温暖化の危機についての認識が高まってきたことから、京都議定書後の枠組みが議論される国際政治の場でも大幅削減の必要性の認識が高まり、首脳レベルでも共有されるようになってきたのです。

50%削減に向けた道筋

では、いったいわれわれはいつまでにどれぐらい温室効果ガスを削減しなくてはならないのでしょうか。

削減目標を設定するためには、まず目標とする具体的な安定化レベル(安定化させる温室効果ガス濃度や気温の値)を定める必要がありますが、世界では具体的数値目標を含む合意がなされていません。前述の国連の気候変動枠組条約の究極的な目標でも、具体的なレベルは述べられていません。2007年6月にドイツのハイリゲンダムで開催されたG8サミットでは、温室効果ガス排出量を2050年に現状比で半減することを検討することに合意しました。これは世界全体の統一目標となり、気候安定化に向けての一歩になる可能性があります。

「2050年に世界全体の温室効果ガス排出量を半減」に言及する際には、(1) 2050年半減だけに着目するのではなく削減目標を達成することで、気候はどのレベルで安定化するかを把握しておくこと、(2) 2050年に温室効果ガス半減を達成するまでの排出経路と、達成後の排出経路がどのようになるか(どうすべきか、どういう選択肢があるのか)について認識しておくこと、(3) 半減するときの基準年をどこに設定するかによって目標とする削減量が変わってくること、に注意しておく必要があります。

2050年に世界全体の温室効果ガス排出量を半減することで、気候をどのレベルに安定化させることができるのでしょうか。気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)第4次評価報告書では、第3次評価報告書以降に発表された177の安定化シナリオを表1に示すように分類し、安定化レベルとその時の放射強制力[注3]、CO2濃度、温室効果ガス濃度、CO2排出量などの関係を整理しました。表1より、温室効果ガス濃度をあるレベルに安定化させたときの気温上昇や、そのために必要な削減目標(温室効果ガスやCO2のピーク時期や2050年の削減量)の大まかな関係を容易に掴むことができます。前述の2050年半減は(CO2で考えた場合)、おもにカテゴリーII(2000年比−60〜−30%)に属することがわかります。カテゴリーIIの気温上昇は、産業革命前に比べて2.4〜2.8°Cとなると予測されています。また、2050年に温室効果ガス半減を達成するまでの排出経路は、図1(カテゴリーII)に示すように、排出量のピークを早め、さらに2050年までに大幅な排出削減を行い、2050年後も削減を続ける必要があることがわかります。温室効果ガスの総排出量は1990年から2004年の間では24%増加(CO2排出量は1990年から2004年の間では28%増加)しており、2004年を基準とした温室効果ガス半減値は、1990年基準の温室効果ガス半減値より12%も大きくなることに注意が必要です。

表16つの安定化目標とそれらの世界平均気温上昇値との関係

カテゴリー 放射強制力 CO2濃度 温室効果ガス濃度 (CO2換算) 産業革命前からの気温上昇 CO2排出がピークとなる年 2050年のCO2排出 (2000年比) シナリオの数
W/m2 ppm ppm °C %
I 2.5 – 3.0 350 – 400 445 – 490 2.0 – 2.4 2000 – 2015 −85 to −50 6
II 3.0 – 3.5 400 – 440 490 – 535 2.4 – 2.8 2000 – 2020 −60 to −30 18
III 3.5 – 4.0 440 – 485 535 – 590 2.8 – 3.2 2010 – 2030 −30 to +5 21
IV 4.0 – 5.0 485 – 570 590 – 710 3.2 – 4.0 2020 – 2060 +10 to +60 118
V 5.0 – 6.0 570 – 660 710 – 855 4.0 – 4.9 2050 – 2080 +25 to +85 9
VI 6.0 – 7.5 660 – 790 855 – 1130 4.9 – 6.1 2060 – 2090 +90 to +140 5
合計             177

出典:環境省 (2007) IPCC第4次評価報告書第3作業部会報告書概要(公式版) http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/wg3_gaiyo.pdf

figure

図1安定化目標(表1に定義するカテゴリーI・II)における排出パス(緩和シナリオ)

これらはCO2排出のみに関する排出経路。IPCC第3次評価報告書以後の排出シナリオにおけるCO2排出量の範囲を示す。

出典:環境省 (2007) IPCC第4次評価報告書第3作業部会報告書概要(公式版) http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/wg3_gaiyo.pdf

このように、中長期的な目標である2050年に世界全体の温室効果ガス排出量をどのようにして半減するかを具体的に検討するためには、今後さまざまな点を注意深く議論しなくてはなりません。しかしながら、この目標は長期的な気候安定化目標達成のための有効な道標となることは明らかです。目標達成に向かって先進国と途上国が一体となり世界全体で取り組むことが必要なのです。このとき、CO2排出量が世界第4位(2000年)の日本は、これまで排出してきた温室効果ガス累積排出量の多さを考慮すると、世界の中でもより大きな削減努力は必須であると考えられます。

気候安定化を目指して—短期、中長期、長期の目標設定が必要

温暖化影響は長期にわたる地球規模の問題であり、予想される深刻な影響はわれわれの生活基盤を脅かすものと考えられます。気候を安定化させるためには、短期目標として、温室効果ガス排出量を削減傾向へ移行するために世界全体で取り組む削減枠組みの構築が必要であり、中長期目標として、気候安定化を達成するための温室効果ガス排出経路を実現するための具体策を講じていく必要があり、両者共に重要です。さらに、短期、中長期に加えて、長期も含めた世界共通の具体的な目標を設定し、気候安定化に向かって世界全体で協調して努力していくことが今求められています。

注1
6種の温室効果ガスとは、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、パーフルオロカーボン(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)のこと。
注2
HFCs,PFCs,SF6については1995年としてもよい。
注3
放射強制力とは、CO2などの温室効果ガスの濃度や太陽放射強度などの変化による対流圏界面における放射強度の変化のこと。放射強制力が正の場合には地表を加熱し、負の場合には冷却する。

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