ココが知りたい温暖化

Q14寒冷期と温暖期の繰り返し

!本稿に記載の内容は2023年12月時点での情報です

寒冷期と温暖期は定期的に繰り返しており、最近の温暖化傾向も自然のサイクルと見る方が科学的ではないのですか。また、もうすぐ次の寒冷期が来るのではありませんか。

横畠徳太 阿部学

横畠 徳太 (国立環境研究所)1 阿部 学 (海洋研究開発機構)2

過去に氷期と間氷期が周期的に繰り返されてきました。この気候変動は、地球が受け取る太陽エネルギー量(日射量)の変動がきっかけとなって生じると考えられています。しかし、20世紀後半からの温暖化は、日射量変動のみでは説明できず、大気中の温室効果ガス濃度の人為的な増加が主因であると考えられています。また、2万~10万年スケールの日射量変動は理論的に計算できることから、これをもとにした将来の氷期に関する予測研究があります。このような予測によると、これまでに排出された温室効果ガスの影響により、現在の間氷期は今後5万年以上続き、今後の温室効果ガス排出量によってさらに氷期の到来が遅れると予測されています。 

日射量の変動は気候を変える重要な因子である

地球の歴史をみると、氷期と間氷期が約10万年の周期で起こっていたことが知られています。この気候変動には、複数の原因が指摘されていますが、基本的には北半球夏季の日射量変動がきっかけとなり、大気中の温室効果ガス濃度が変わることにより、周期的な変動が生じると考えられています(注1)また、過去2000年間に着目すると、比較的小規模な気候変動が生じていますが、これに対しても日射量変動が影響していたと考えられています。以下では、時間スケールが異なる、これら二つの気候変動について説明します。 

2万〜10万年スケールの日射量変動による気候変動

図1は、過去80万年間の南極の気温変動を示しています。このデータは、南極氷床の過去につくられた氷(氷床コア)を分析し復元(推定)したものです(注2)。気温が顕著に高い間氷期の間隔は約10万年であり、長期スケールの氷期と間氷期の繰り返しが明瞭にみられます。この気候変動の原因は、地球の自転軸の傾きや地球が太陽の周りを回る軌道が周期を持って変動することによって生ずる2万~10万年スケールの北半球夏季の日射量変動と密接に関係すると考えられています(この周期変動をミランコヴィッチサイクルといいます)。詳細な変動機構の説明は割愛しますが、この日射量変動がきっかけとなり気温が変化し、気温変化→氷床や二酸化炭素(CO2)濃度の変化→気温変化というように気温変化の増幅(注1)を繰り返しながら、気候が変動したと考えられています。また、氷期から間氷期に遷移するときの気温上昇速度は、20世紀後半から起きている気温上昇速度とは異なります。たとえば、今から約2万1000年前の最終氷期から次の間氷期に遷移する約1万年間での4~7℃の全球気温上昇に比べて、20世紀後半から起こっている気温上昇速度は約10倍も速いのです。以上のことからわかるように、現代の温暖化傾向は、ミランコヴィッチサイクルに起因する自然起源の気候変動だけでは説明することができません。 

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図1過去80万年間における南極の気温の推定値の時系列(現在からさかのぼって過去1000年間の平均値からの差, ℃)。約10万年スケールでの気温の変動がみられ、氷期と間氷期が繰り返す気候変動が起こっていたことがわかる。 (参考文献 1 のデータをもとに作成)

今から過去2000年間の自然の気候変動

今から過去2000年間の気温の推移(図2)をみると、「小氷期」とよばれる、北半球気温の変動幅が1℃未満の気候変動がありました(注3)。これらには数百年スケールの太陽活動の強弱による日射量変動が影響していたと考えられています。つまり、15~19世紀頃には太陽活動が低下したために小氷期がもたらされたと考えられています(注4)。しかし、20世紀後半には太陽活動の活発化はみられないことから、現代の地球温暖化を、太陽活動の変化のみによって説明することはできないのです(注5)。 

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図2古気候の記録から復元された世界平均気温の変化(灰色、西暦1−2000年)および直接観測による世界平均気温の変化(黒色、西暦1850-2020)。1850-1900年を基準として気温変化を示す。小氷期(約1400年から約1900年)と呼ばれるような気候変動があったことがわかる。また、約1970年頃(20世紀後半)から気温が短期間で急激に上昇した、最近の温暖化が見られる。IPCC 第6次評価報告書政策決定者向け要約、図SPM1(a)を改変。

20世紀後半の地球温暖化の主因は温室効果ガスの増加である

図2をみると、20世紀半ば以降、短期間で急激な気温上昇が起こっていることがわかります。しかし、前述のように、ミランコヴィッチサイクルや数百年スケールの太陽活動の強弱に伴う日射量変動では、20世紀後半からの気温上昇を説明できません。20世紀後半から起こっている地球温暖化の主要因は、人間が排出する温室効果ガスだと考えられています。 このことを調べるために、気候モデル研究者らは、20世紀の気候変化に寄与すると考えられるさまざまな因子(温室効果ガス濃度の増加だけでなく、人為起源の硫酸エアロゾル排出の変化、オゾン層の変化、火山噴火、太陽活動変化なども含まれる)を考慮した気候モデル実験(20世紀再現実験)を行いました。この実験では、これら因子をすべて考慮した計算に加え、いくつかの因子を考慮しないなど仮想条件での計算も行い、それらの結果を観測データと比較することにより、20世紀後半の気温変化に対する各因子の寄与度を検討しています。このような検討の結果、人間が排出する温室効果ガスを考慮しなければ、20世紀後半の温暖化を説明できないことが示されました。気候モデルシミュレーションだけでなく、様々な証拠を組み合わせることにより、人間活動が気候に影響を与えたことを示す研究結果が蓄積されています。このため、IPCC 第6次評価報告書では「人間の影響が大気、海洋、及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と結論づけています。  

次の氷期の到来は?

図1に示されるような10万年程度の周期的な過去の気候変動は、数多くの研究者を惹きつけてきた非常に興味深い現象です(「さらに知りたい人のために」文献参照)。前述のように、ミランコビッチサイクルによる日射量の変動がきっかけとなり、大気中の温室効果ガス濃度が変化し、10万年程度の周期的な変動が生じると考えられています。つまり、北半球への日射量が小さく、かつ大気中の温室効果ガス濃度が比較的低い場合には、「氷期の始まり」が生じると推定されます。 現在の地球は、比較的温暖な「間氷期」にあり、一つ前の間氷期は11万年以上前であることから、自然の周期的には「氷期の始まり」にいつ突入してもおかしくないと考えられます(実際、北半球への日射量が小さい時期を迎えています)。しかし、これまでの人間活動によって、現在の大気中の温室効果ガス濃度は非常に高いため「氷期の始まり」が自然の周期よりも遅れている、と考えられているのです。ある研究(参考文献 [2])によると、1) 仮にいますぐに人間が二酸化炭素の排出を止めたとしても、大気中に残る温室効果ガスの影響で、今後5万年は「氷期の始まり」は起こらないと予測され、さらに、2) パリ協定の目標が実現する(今後の気温上昇を、産業革命前と比較して2℃に抑える)ように二酸化炭素排出削減を行ったとしても、「氷期の始まり」は10万年程度遅れる、と予測されています。現時点で、今後数10年~100年の期間でわれわれが優先的に対応を考えるべきは、自然の気候変動ではなく、人為的な温暖化やその影響であるといえるでしょう。

注1
氷期-間氷期サイクルについてはココが知りたい地球温暖化「氷床コアからわかること:二酸化炭素が先か、気温が先か」を参照。
注2
ここでは南極の気温の推定値のみを示しましたが、各地の気候変化を示す指標(プロキシーデータ)から、図に示したような気候変動が地球規模で起こったと考えられています。
注3
IPCC 第6次報告書では、開始のタイミングが明確に定義できないこと、地域によっても差があることから、「小氷期」という用語はあまり使われていません(IPCC 第6次評価報告書第2章 Cross-Chapter Box 2.1)。
注4
なお、太陽活動の低下とは別の寒冷化メカニズムとして、火山噴火の活発化も考えられます。
注5
ココが知りたい地球温暖化「Q12太陽の黒点数の変化が温暖化の原因?」を参照。

参考文献

  • Jouzel et al. (2007) Orbital and Millennial Antarctic Climate Variability over the Past 800,000 Years. Science, 317, 5839, 793-797, doi:10.1126/science.1141038
  • Ganopolski et al. (2016) Critical insolation–CO2 relation for diagnosing past and future glacial inception. Nature, 529, 200-203, doi:10.1038/nature16494  

さらにくわしく知りたい人のために

  • 大河内直彦 チェンジングブルー 岩波現代文庫 
  • カート・カスティージャ 10万年の未来地球史 日経BP社 
  • 地球46億年の気候大変動 横山祐典 ブルーバックス 
  • 地球気候学 安成哲三 東京大学出版会

1. 第3版 横畠 徳太(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室主幹研究員)

2. 第1-2版 阿部 学(出版時 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室 NIESポスドクフェロー/ 現在 海洋研究開発機構 環境変動予測研究センター 副主任研究員)