2014年1月号 [Vol.24 No.10] 通巻第278号 201401_278010

【最近の研究成果】 アジア域で検出された過去30年間における陸域植生の光合成量の変動傾向

地球環境研究センター 統合利用計画連携研究グループ 連携研究グループ長 市井和仁

アジアは、近年、急激な経済発展、土地利用変化、気候変動などによって、急速な環境変動が起こっている地域として着目されており、それに伴う陸域生物圏の炭素循環の変動の把握が必要であるとされている。広域の陸域生物圏の炭素循環を把握する方法としては、衛星観測を利用する方法や数値モデル(陸域炭素循環モデル)を利用する方法などがあり、これらの手法の複合利用によって、より信頼のできる現状把握が可能となる。

本研究では、陸域炭素循環の最も重要な要素であり、光・温度・降水量などの環境変動の影響を受けやすい光合成量の変動に着目した。衛星観測データと陸域炭素循環モデルの併用に基づき、より信頼性の高い光合成変動傾向の検出を行うため、衛星観測データを得ることのできる最近の30年間(1982–2011年)を対象期間とした。

まず、衛星で観測された植生指数の変動傾向を解析することにより、アジアの約40%の面積において、植生指数の増加傾向がみられることが分かった。これは近年アジアにおいて光合成が活発化している傾向が強いことを示唆する。一方で、4種類の異なる陸域炭素循環モデルを用いて光合成量を算出すると、モデルで計算された光合成量と、衛星観測により得られた植生指数の経年変動が概ね一致し、モデルでも光合成量の増加傾向が得られた。異なる手法によって同様の光合成増加傾向が推定されたことを踏まえると、アジアにおいては高い信頼度で、過去30年間に広い地域で大気二酸化炭素濃度上昇による施肥効果や気候変動により光合成量が増加し、大気の二酸化炭素の吸収に貢献していることが分かった。

fig

1982年から2011年における衛星観測された植生指数NDVI(植生成長期間における年平均値)の増減傾向。緑の地域は増加傾向、赤の地域は減少傾向を示す。本領域で約40%の面積において植生指数が増加傾向を示した

本研究の論文情報

Recent changes in terrestrial gross primary productivity in Asia from 1982 to 2011
著者: Ichii K., Kondo M., Okabe Y., Ueyama M., Kobayashi H., Lee S.-J., Saigusa N., Zhu Z., Myneni R. B.
掲載誌: Remote Sensing, (2013) 5, 6043-6062, DOI:10.3390/rs5116043.

目次:2014年1月号 [Vol.24 No.10] 通巻第278号

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