2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号 201602_303001

国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)および京都議定書第11回締約国会合(CMP11)報告 1 政府代表団メンバーからの報告:「強制」から「誘導」へ〜各国目標をめぐるパリCOPの成果

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2015年11月30日〜12月13日に、フランス・パリにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)および京都議定書第11回締約国会合(CMP11)が開催された。これと並行して、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第2回会合(第12部)、および第43回補助機関会合(科学上および技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA43、実施に関する補助機関会合:SBI43)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。

COP21において、気候変動への対応を強化するための、2020年以降の枠組みの骨格がパリ協定という形でついに結実した。南アフリカ・ダーバンでのCOP17におけるADPの立ち上げから足かけ4年、それ以前の試みを含め長い道のりだったが、その一番の意義は、途上国を含むすべての国を包含する枠組みを作ったことにある。従来から用いられている先進国・途上国の責任の差異化を示す表現が文書に残った部分もあるが、細部をみると、先進国が率先して取り組むことを前提としつつ、排出削減目標に関連する重要な義務事項の共通化等を実現しており、大きな前進があった。

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写真1COP21全体会合で議事進行するファビウス議長

今回のCOPでも、排出削減や、資金、長期的な温度目標等、様々な事項について、各国の意向の折り合いの中で、合意が作り上げられた。論点は多岐にわたるが、COP21の全体的な評価は地球環境研究センターニュース4月号で取り上げる予定のため、本稿では、排出削減目標の提出、その更新、世界全体での排出削減総量の評価に関する点に焦点を当てていきたい。COPやCMP、ADP、SB(補助機関)の他の事項に関する交渉の概要については、環境省の報道発表(http://www.env.go.jp/earth/cop/cop21/index.html)等を参照されたい。

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写真2各国の国旗のついた円柱が立ち並ぶCOP21会場の入り口

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写真3COP21中毎日1万個のパンを手作りしていると宣伝していた会場内のパン屋

1. パリ協定下の排出削減目標

パリ協定では、各国とも5年おきに排出削減目標(自国で決定した貢献:NDC)を提出することが決まった。この排出削減目標は、提出する度に、以前の目標より前進(progression)していることが求められる。本稿執筆時点(1月28日現在)で160の国・地域がNDCの草案(INDC)を提出済みであるが、2025年目標を提出した米国等の国は2020年までに目標を更新の上、正式に提出し、2030年目標を提出した国は2020年までに目標の正式な提出が求められる。また、この目標は、期限となる年のCOPの9〜12カ月前に提出することになっている。目標の中身を明確化し、削減総量が2°Cや1.5°C目標に向けた努力として十分なのかを評価するためである。

なお、この排出削減目標は、達成に対する法的拘束力を持たない。京都議定書の下での目標と異なる点である。目標の数値そのものも、各国が自国で決定したものであることを踏まえると、この点においては、パリ協定は合意できる範囲で合意したものと言えるだろう。

2. 透明性フレームワーク、グローバルストックテイクなどの新たなルール

同協定では、上記の目標提出と更新にあわせ、行動と支援のための透明性確保のためのフレームワークを構築し、各国に定期的に排出・吸収量、目標達成に向けた進捗に関する情報、支援に関する情報等の提出を義務付けることによって、各国による排出削減目標の達成等を脇から後押しする想定である。既存の隔年報告書、隔年更新報告書では、各国の温室効果ガス排出量、先進国の目標の前提条件や、緩和策の詳細を含む達成への進捗状況、支援の提供状況、途上国の緩和行動や、支援の受領状況等の重要情報を定期的に報告させることになっており、その品質を担保するために国際評価・審査、国際協議・分析が導入されている。(表参照)2020年以降の枠組みにおける透明性フレームワークの詳細ルール作成にあたっては、これら既存の制度から得られた経験も踏まえることになっている。また、既存の透明性確保のための制度は、2020年以降の枠組みにおける透明性フレームワークの詳細ルールが決まればそれで置き換えられることも、パリ協定を採択するためのCOP決定に盛り込まれている。パリ協定で示された透明性フレームワークの骨格は、既存の制度を活かしながら円滑に移行できるように配慮して作られた印象で、既存の透明性確保のための制度に一部かかわっている者としては高く評価したい。

現行の気候変動枠組条約下の隔年報告書と隔年更新報告書の概要

  先進国 途上国
名称 隔年報告書(BR) 隔年更新報告書(BUR)
内容
  • ✓ 温室効果ガス排出量およびその経年推移に関する情報
  • ✓ 排出削減目標
  • ✓ 目標の達成に向けた進捗状況
  • ✓ 将来予測
  • ✓ 資金、技術、キャパシティビルディングに関して実施した支援
  • ✓ 国家温室効果ガスインベントリ
  • ✓ 緩和行動
  • ✓ 資金、技術、キャパシティビルディング面のニーズおよび受けた支援
品質担保の方法 国際評価・審査(IAR) 国際協議・分析(ICA)

*隔年(・更新)報告書の他、先進国は毎年温室効果ガスインベントリを提出することが規定されており、また、先進国・途上国ともに4年に一度国別報告書を提出することが規定されている。国別報告書の内容は地球環境研究センターニュース2011年8月号注2参照。

さらに、各国目標を合算した削減総量をもって、2°Cや1.5°C目標の達成に向けた努力として十分なのかを、パリ協定の締約国会合において5年おきに確認することになった(global stocktake(棚おろし))。各国は、この結果を受けて目標を更新・強化することが求められる。

3. 隔年報告書に対する第一回国際評価・審査の終了、京都議定書第二約束期間の詳細ルール決定

COP・CMPと並行してSBI・SBSTAの補助機関の会合も従来と同様に行われており、COPやCMPが従前に採択した決定に基づき細かい点まで様々な検討・議論がなされている。

今次SBI43会合では、前回に引き続き、隔年報告書に対する国際評価・審査(IAR)プロセスの最終段階にあたる多国間評価がベラルーシとカザフスタンについて実施された。今回は政策・措置の定量的削減効果や削減目標達成に向けた市場メカニズムの利用の想定等の質問・指摘はなく、過去2回の多国間評価に比べると、緊張感はそれほどでもない印象であった。

今回の多国間評価をもって2014年から始まった第一回のIARのサイクルは完了したことになり、次のサイクルは、今年の1月1日までに先進各国が提出した隔年報告書に対する技術審査から再スタートすることになる。上述のとおり、このIARを含む既存の透明性確保のための制度は、2020年以降の枠組みにおける透明性フレームワークの基盤をなすことになる。

その他、2013年から第二約束期間が開始された京都議定書に関しては、整理すべき点が多く結論が待たれていた、アカウンティング[注]、報告、審査等の、第二約束期間を実施に移すための詳細ルールが決まった。これを踏まえ、日本を含む第二約束期間に参加しない国も、概ね第一約束期間と変わらず報告を行い、審査を受けることになる。

第一約束期間時の詳細ルールというひな型があったにもかかわらず、当該議論が決着するのには2012年以降丸4年かかっており、これに照らすと、上述したパリ協定の詳細ルールを確定させるのに長期間かかることが予想される。2020年からのパリ協定の実施に向けた準備を行う特別作業部会の設置が今回のCOPで決まり、その作業期限は2018年とされたが、それまでに作業を完了させるのはかなりタイトなスケジュールになるだろう。

ただ、パリ協定を採択するためのCOP決定の中に各国に改正京都議定書の批准を呼びかける文言が入ったものの、昨年の12月21日時点では、59カ国しか改正京都議定書を批准しておらず、これは発効に要する144カ国の批准に未だ遠く及ばないことから、そもそも京都議定書第二約束期間が発効するかを気に留めておく必要がある。

4. 今後に向けて

上述のとおり、パリ協定が今回無事に成立したのは、強制という形態よりも誘導という形態をとったからではないか。協定下の各国の削減目標は法的拘束力を持たないが、その定期的更新や、透明性確保のための手続きに拘束力を持たせることによって間接的に各国に削減目標を強化させ、また達成させようとする構造になっている。さらに、世界全体でも、その各国目標を合算した削減総量をもって2°Cや1.5°C目標に向けた努力として十分なのかを定期的に確認してさらに目標の強化につなげる狙いだ。もちろん、これにはパリ協定の発効が重要な前提条件になる。

また、2020年以降の枠組みの詳細ルールは今次COPで採択されていないため、これからの国際交渉に委ねられている。その内容の如何によりパリ協定の意味合いは大いに変わってくるため、予断は許されない。

脚注

  • 京都議定書では、削減目標の達成のために、当該国への初期割当、クリーン開発メカニズム、共同実施、森林等吸収源から得られた京都ユニットの取引を行うことができる。これらユニットの計上。遵守評価等に用いられる。

略語一覧

  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 京都議定書締約国会合(COP serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • 強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action: ADP)
  • 科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA)
  • 実施に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Implementation: SBI)
  • 自国で決定した貢献(Nationally determined contribution: NDC)
  • 自主的に決定する約束草案(Intended Nationally Determined Contribution: INDC)
  • 国際評価・審査(International Assessment and Review: IAR)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)
  • 隔年報告書(Biennial Report: BR)
  • 隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)

目次:2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号

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