ココが知りたい温暖化

Q6森林減少の防止による温暖化対策

!本稿に記載の内容は2013年9月時点での情報です

世界の森林は減少傾向にあると聞きます。温暖化対策でいくら化石燃料の消費を減らしても、森林減少が続けば温暖化は進んでしまうのではないですか。また、植林による対策は森林減少に比べると焼け石に水ではないですか。

山形与志樹

山形与志樹 地球環境研究センター 主席研究員

森林減少による二酸化炭素(CO2)排出量(年37億トン)は、グローバルな化石燃料の使用によるCO2排出量(年304億トン)の10分の1強に上ります。したがって、温暖化の防止のためには化石燃料消費の大幅な削減だけでなく、同時に植林や森林減少防止の方策を考える必要があります。現状では、温暖化対策としての植林は森林減少の規模に比べると限定的です。しかし、IPCCの報告書では、2030年頃の森林関係の温暖化対策ポテンシャル(可能性)は、植林と森林減少防止が約3:7の割合で、合計して年13〜42億トン程度のCO2排出削減が可能であると評価されています。

無視できないグローバルな森林減少による二酸化炭素(CO2)排出

世界的な森林減少の傾向は、残念ながら現在も継続しています。図1は、過去150年間における世界の森林減少に伴うCO2排出の変遷を地域(国)別に示したグラフです。この図から、近年は特に熱帯アジア域における森林減少が大きく、南米やアフリカの熱帯地域とあわせて、グローバルなCO2排出源となっていることがわかります。実際、世界最大の森林減少国であるブラジルでは年7億トン程度のCO2排出が続いています。一方、米国における森林減少は20世紀の初めには歯止めがかかり、森林の過剰伐採が原因とされる洪水が頻発して問題となった中国では、今世紀になって森林減少が止まりました。

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図1森林減少に伴う地域(国)別CO2排出量の変化(CDIACのデータをもとに作成)

森林減少に伴って排出されるCO2は、森林が主に農地等に転換された際に、バイオマスとして蓄積していた森林中の炭素(土壌中の炭素を含む)がCO2の形で大気中に放出されたものです。これは森林が伐られた後、樹木や枝・葉などのほとんどが数年内に分解するためで、その規模は過去10年間(2011年まで)の平均でグローバルに年約37億トンと推定され、推定の不確実は大きいものの、世界における化石燃料の燃焼等によるCO2排出量(年304億トン)の約10分の1を超えています。(Le Quéré et al., 2013)森林減少の主な原因としては、(違法)伐採、焼畑、森林火災、農地転換、都市化などがあげられますが、世界的に人口増加・経済発展が進んでいる途上国においても開発が進む現在、森林減少のリスクはますます増大しています。

植林の効果は限定的ではあるが、着実に進めるべき対策

京都議定書では、先進国における植林活動が国内温暖化対策として、また途上国における植林活動がクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)の構成要素として、それぞれ認められました。荒地等に植林をして森林を回復することにより、光合成によってCO2を固定し、樹木や土壌中に炭素を蓄積することが可能です。数値目標をもった先進国(企業等)が資金を出して途上国で実施するCDM植林活動が、温暖化対策として認証され、CO2吸収分の炭素クレジットが発行されます。(植林対策の詳細は、ココが知りたい地球温暖化「植林による温暖化対策」参照)

しかしCDM植林で認められた温暖化対策には上限(投資国の排出量1%)や有効期限(30年)等の制約もあり、今のところ実施されている植林プロジェクトは限られています。実際、砂漠周辺等のもともと森林のなかった土地に大規模な新規植林を実施して定着させることは容易ではなく、人口が増大して農地が不足している途上国では植林用に大規模な土地を確保することも困難です。また、同じ面積の森林減少と植林とを比較すると、森林減少では過去に長期間にわたって蓄積してきた炭素が短期間に排出されるのに対して、植林では樹木の生長に時間がかかるため、森林減少で排出された量に相当する炭素を再吸収するためには数十年の時間がかかります。

これらの理由により、現状では植林対策によるCO2吸収量よりも森林減少によるCO2排出量の方がグローバルにはずっと大きくなっています。しかし、すぐに対策効果が現れないからといって、植林が重要でないわけではありません。荒地に森林を回復することで、水、土壌、生物多様性、アメニティー(快適性)などの環境機能を向上させることができます。森林が急減しているなか、持続可能な森林管理の実現はグローバルな課題です。今後も長期的視点から植林対策に積極的に取り組んでゆく必要があります。

CO2排出抑制に有効な森林減少の防止

森林減少に伴う大規模なCO2排出を削減するためにも、一度失われてしまえば回復不可能な熱帯林の生物多様性を保全する視点からも、森林減少を防止する対策がより喫緊の国際的課題となっていますが、残念ながら森林減少の防止はCDMとしては認められませんでした。そのため、現時点では途上国が温暖化対策として森林減少の防止に取り組むメカニズム(資金の調達手段)がありません。しかし、途上国における森林減少の防止による温暖化対策が、京都議定書の約束期間終了後の「次期枠組み」(ポスト京都)に向けての交渉の中で再び注目を集めつつあります。

ポスト京都における長期的な目標としては、世界全体の温室効果ガスの排出量を2050年までに現状比50%削減する案が国際的に議論されています。この50%削減の詳細は長期的な検討課題ですが、化石燃料の利用によるCO2総排出量の約2割に相当する森林減少からの排出削減も重要な課題となることは明らかです。実際、森林減少を防止する対策をしない場合には、将来的にブラジルだけでも現存する森林の40%以上が減少して、合計1200億トンものCO2が排出されると予想されています。

もし今後、森林減少の防止が温暖化対策として認められれば、この対策によるCO2排出削減分が、炭素クレジット(価格)として経済価値をもつ可能性があります。最新の気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の第4次評価報告書では、この炭素価格がCO2の1トンあたり最大12000円まで高く評価される場合には、この資金を用いて2030年までに、世界累計で年13〜42億トン(平均で年27億トン)程度、またCO2の1トンあたり2400円以下の場合でもその約半分(年16億トン)程度の森林関係の排出削減対策(植林と森林減少防止対策の比率は約3:7)が可能であると評価されています。

ところで、化石燃料からのCO2排出削減と森林減少の間には複雑な相互関係があります。たとえば、バイオ燃料の導入が温暖化対策のひとつとして検討されていますが、サトウキビ等のエネルギー作物に対する需要の急速な増大に伴って、ブラジル等のバイオ燃料輸出国における森林減少を加速することが懸念されます。このような点からも、長期的な温暖化対策について、森林減少の防止とセットで検討することが重要です。

森林減少の防止の取り扱いについては、2005年11月にカナダのモントリオールで開催された国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)第11回締約国会議(COP11)において、パプア・ニューギニアとコスタリカより、「途上国における森林減少・劣化による温室効果ガス排出の削減」(Reducing Emissions from Deforestation and Degradation in Developing countries: REDD)の提案がなされました。その後、森林減少や森林劣化からの排出削減だけでなく、森林保全、持続的な森林経営、植林活動も含めることになり、第13回締約国会議(COP13)以降はREDD+(REDDプラス)と呼ばれるようになりました。REDD+の重要性については、先進国も途上国も共通の認識をもっています。REDD+が進むためには、途上国に対する新たなインセンティブ(経済的な誘因)に関する制度設計が重要です。世界銀行などが中心となって、パイロットプロジェクト(森林炭素パートナーシップ基金)を立ち上げ、具体的な経験とノウハウを蓄積しつつあります。今後、条約の下でこうした議論が一層進展することが期待されます。

森林炭素監視システムの構築に向けた動き

REDD+を実現するためには、森林減少の防止によって得られるCO2排出削減を定量的に評価する方法についての検討が必要です。そのためには、森林減少に伴うCO2排出量を算定するための信頼性の高い国際的な監視システムが不可欠です。この監視システムは、計測(Measurement)・報告(Reporting)・検証(Verification)の3つに対応する必要があることから、これらの頭文字をとってMRVと呼ばれています。精度の高いMRVのためには、これまで雲に覆われて観測の難しかった熱帯域の森林を、雲を透過するレーダーを用いて定期的に観測できる日本の陸域観測衛星ALOSに搭載されたセンサ「PALSAR」など、衛星観測による監視システムが有効と考えられています。

さらにくわしく知りたい人のために

  • IPCC第3作業部会第4次評価報告書第9章「林業」
  • Le Quéré et al., 2013, ESSD, 5, 165-185, doi: 10.5194/essd-5-165-2013
  • 山形与志樹 (2006) 陸域生態系の炭素吸収源機能評価—京都議定書の第2約束期間以降における検討にむけて—. http://www.cger.nies.go.jp/publications/report/d039/all_D039.pdf