2013年12月号 [Vol.24 No.9] 通巻第277号 201312_277006

【最近の研究成果】 気候予測の信頼性向上に向けて〜対流圏調節の不確実性の理解

地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 主任研究員 小倉知夫

大気中の二酸化炭素濃度の増加に対して対流圏(地表面から上空9〜17kmまで)はどれくらいの速さで応答するのでしょうか。近年の研究では対流圏が従来考えられていたよりも短い時間(数日〜数週間)で応答することが指摘され、「対流圏調節」と呼ばれて注目を集めています。温暖化に伴う気候変化を数値モデルで正しく予測するには、この対流圏調節をモデルで現実的に表現することが必要です。しかし、対流圏調節を複数のモデルで計算すると、下層雲の分布等にモデル間で大きな違いが生じることが指摘されています。われわれは、特に大きな違いが見られる3つの気候モデル(MIROC3.2 medres, MIROC5, HadGEM2-A)に注目して、対流圏調節にモデル間で違いが生じる仕組みを調べました。その結果、二酸化炭素の増加によって生じる放射の変化(瞬時放射強制力)が対流圏中層(上空6km付近)で一致しておらず、これがモデル間に違いを生む大きな原因と分かりました。また、瞬時放射強制力の計算を気候モデルで行った場合と、より精密なライン-バイ-ライン法で行った場合とで比較したところ、MIROC5とHadGEM2-Aの結果がMIROC3.2 medresよりも正確なことが分かりました。今後はこうした知見を気候モデル改良に生かすことで、温暖化予測の信頼性向上につなげることが重要と考えます。

fig.

大気中の二酸化炭素濃度4倍増に対する (a) 気温の応答、および (b) 様々な物理過程から生じる気温変化率の応答。低緯度の対流圏中層における30年平均値を3つの気候モデル(MIROC3.2 medres, MIROC5, HadGEM2-A)について示す

本研究の論文情報

Importance of instantaneous radiative forcing for rapid tropospheric adjustment
著者: Ogura T., Webb M. J., Watanabe M., Lambert F. H., Tsushima Y., Sekiguchi M.
掲載誌: Clim. Dynam., (2013) DOI: 10.1007/s00382-013-1955-x

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