2020年3月号 [Vol.30 No.12] 通巻第351号 202003_351003

Visioning Exercise—IGACは将来の方向性をどうイメージするのか?

  • 地球環境研究センター 交流推進係 ナジ田中エディット
  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室長 谷本浩志

IGAC(地球大気化学国際協同研究計画)の第34回のSSC(研究推進委員会)会議が、2019年10月29日から31日までの間、メキシコシティにあるメキシコ国立自治大学(UNAM)で開催されました。UNAMは300,000人以上の学生を擁し、中南米で最高ランクの有力な国立研究大学です。20世紀におけるメキシコの何名かの有名な建築家によって設計されたキャンパスは、UNESCOの世界遺産にも登録されています。IGAC SSC会議は、このような創造的な環境の中で開催されました。会議の前に、IGACは自らの将来の方向性をどのように考えているのか、また、科学と社会のニーズにより良く応えるために将来の使命をどのように再定義すればよいのかを議論するために、IGAC SSCメンバーを対象にBill Sharpe先生をファシリテーターとしてVisioning Exerciseが行われました。Bill Sharpe先生はイノベーションコンサルタントであり、イギリス西部大学のデジタル文化研究センターの客員教授をしています。このVisioning Exerciseは、Sharpe先生が開発した「Three Horizons Model」を用いて、グループワークの形式で行われました。Three Horizons Modelとは、グループが現在の状況とその課題(Horizon 1)、未来のビジョンとミッション(Horizon 3)、およびそのビジョンを実践するために必要なアクション(Horizon 2)に関する共通認識を明確にするためのどの分野でも使えるシンプルなモデルのことです。

図1 Three Horizons Model

写真1  Bill Sharpe先生をファシリテーターとしたVisioning Exercise

Visioning Exerciseではまず、参加者それぞれが自らの一般的な未来ビジョンについてグループディスカッションをしました。ディスカッションの中では、

  • 自分の仕事における特定のビジョン(例えば:ある国の社会変革)
  • 科学の進歩に向けた取り組み
  • 知識を実践に移すこと
  • 未来に対する子どもたちの期待に応えること
  • 我々の子供たちのために良い環境を確保すること

などが取り上げられました。

また、参加者に大気化学の重要性に関する個人的な提言(ビジョン案)をシールに書いて貼り出してもらい、その出来上がったビジョン案をテーマごとにグループ分けしました。テーマとして「持続可能な世界と人類」「好奇心、挑戦と研究協力」、そして「科学と人間の相互関係」という3つの主要なトピックスが出てきました。

写真2 参加者は出来上がったビジョン案をテーマごとにグループ分けします

次に、IGACの現在の状況と課題(Horizon 1)を把握するために、グループワークで研究論文をレビューし、それらの研究例とIGACの活動を比較しました。結論として分かったことは、他の分野との深い交流や国際的かつ学術的なコラボレーションを持つことが重要であるということでした。

写真3 グループワークではときには芝生に座り、ひざを突き合わせて話し合いが行われました

午後には、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)に基づき、IGACが社会のニーズにもっと確実に応えることができるようにIGACの将来の活動とビジョン(Horizon 3)を広げ、新しいミッションを探求するexerciseを行いました。

今回のVisioning Exerciseでは、参加者間の共通認識及びIGACミッションについての定義を確立させることが目的でした。討論中に度々出されたテーマは、他の学問分野との交流、国際的かつ学術的コラボレーション、そして行政や社会に対してより明確なメッセージを発信することの重要性でした。10月28日のグループワークとディスカッション、そして10月29日のフォローアップディスカッションに基づき、10月31日に実施されたこのVisioning Exerciseの最後のタスクは、IGACが持続可能な世界に向けた大気化学研究を促進するためのミッションを達成することができるように、現在注力している3つの領域、つまり「科学コミュニティを育成する」「キャパシティビルディング」「リーダーシップを提供する」を見直すことでした。また、参加者はIGACが使命を達成するためには、新しいフォーカス領域が必要だということに同意し、「社会とのかかわり」と名付けた新たなフォーカス領域を特定しました。IGAC SSCは2020年中Visioning Exerciseの中から生み出された4つのフォーカス領域の開発に取り組み、2020年9月14〜18日に英国マンチェスターで開催されるIGAC Science ConferenceでIGACコミュニティ全体に発表する予定です。これで、IGAC SSCミーティングのVisioning Exerciseが成功裏に終了しました。

IGAC SSCミーティングの後、私たちはUNAMの大気科学センターを見学し、センターの研究室や屋上で様々な大気観測装置を見せてもらうことができました。

写真4 UNAMの大気科学センターの屋上にある大気観測装置

また、センター内の研究室のドアにNIES CONTRAILおよびGOSATプロジェクトのロゴシールが貼ってあることを見て誇りに思いました! これは、CGERとUNAMの研究者が国際研究プロジェクトで協力していることの証でもあります。

写真5 大気科学センター内の研究室のドアに貼ってあるCONTRAILとGOSATシール

最後に、4日間にわたるIGAC SSCミーティングでは、メンバーが熱心に議論し、新しい洞察力を得ることができ、新たなビジョンを見出すことができました。さらにIGACの将来のミッションについても見直すことができました。

写真6 4日間の会議が終わり充実感でいっぱいのIGAC SSCメンバーたち

世界の国々の大気汚染削減への努力

ナジ田中エディット

IGAC(地球大気化学国際協同研究計画)の第34回年次研究推進委員会が開催されたメキシコシティは、人口890万人(グレーターメキシコシティでは2,130万人)の大都市で、北米で最も人口の多い都市です。私の最初の印象は車の多さと渋滞、そして突然の車線変更や混雑した交通状態でした。そして、これらの車からはどれだけの大気汚染物質が排出されるのか考えてみてください!

写真1 市街の交通の状態

しかし、メキシコシティはこのような交通状態から発生する大気汚染物質を減らすために多大な努力をしています。これまで一つ大きな問題であったことは、市内バスがバス停で停車する度に、その背後のすべての車も停車しなければならないため、アイドリング中に余計な排出ガスが排出され、車が再度発車する際には排出ガスが急増することでした。しかし、この問題は2005年にメトロバスシステムが導入されたことによって解決されました。低排出のメトロバスは、他の車がバスレーンに乗り込むことを防ぐために、縁石内のバス専用車線を走行するようになりました。バスは障害物のない通路で走行することによって、走行時間が短くなり、車もスムーズに流れるようになりました。

写真2 メトロバス専用のレーン

2019年現在、メトロバスシステムは7つの路線に導入されています。バスの専用道路を整備したことによって走行速度が向上し、目的地までの所要時間は平均して50%も短縮されました。また、一酸化炭素の排出量などは、従来のバスに比べて50%ほど削減することができ、年間で二酸化炭素が36,400トン、一酸化炭素が9,900トン、NOxが209トン、PM10が1.29トン、それぞれ削減される効果があります。
(排出ガスデータ:https://en.wikipedia.org/wiki/Mexico_City_Metrob%C3%BAs

*英語も掲載しています。 English version

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