2020年3月号 [Vol.30 No.12] 通巻第351号 202003_351004

GLOBAL CARBON BUDGET 2019に関するセミナーで報告書に携わった研究者が講演しました

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2019年12月9日、グローバルカーボンプロジェクト(GCP)つくば国際オフィスと国立環境研究所地球環境研究センターの主催による標記セミナーが当研究所において開催されました。

2006年以来、毎年、人為的な理由により大気中に排出された二酸化炭素(CO2)の量と大気・陸域・海洋によって自然に吸収された量の収支に関する正確かつ透明性のある評価を提供するためのGlobal Carbon Budget(GCB)報告書が発表されています。GCBは地球規模の炭素循環のより深い理解に寄与し、気候政策の推進に貢献しており、また、各国政府やIPCCを含む国際組織に貴重な情報源を提供しています。GCPは、GCBに関する論文を毎年作成し、人間の活動や自然の要因に由来する炭素収支の変化について最新の数値を示しています。

セミナーでは、GCB 2019報告書に携わった日本の研究者たちが報告書の内容およびそれぞれの研究について説明を行い、本報告書とその意義について学び、議論を行いました。

最初にGCPつくば国際オフィスJittrapirom事務局長から挨拶がありました。そのあと、山形与志樹代表からGCB 2019の3つの重要なポイントについて、以下のように説明がありました。

  • 2019年の世界全体のCO2排出量は前年より0.6%増加と推定されたが、増加率は低下している。
  • 石炭からの排出量は欧米で10%以上減少しているが、化石燃料利用による排出量は増え続けている。
  • 2020年から世界全体の排出量減少を達成するには、対策強化による低炭素社会への転換が必要である。

詳細は、12月4日の報道発表(http://www.nies.go.jp/whatsnew/20191203-2/20191203-2.html)を参照してください。

続いて、報告書に携わった4人の研究者から講演がありました。その概要を紹介します。

海洋表層CO2の評価と地球環境モニタリングの重要性
中岡慎一郎(国立環境研究所地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室)

中岡は、海洋は地球上で最大の炭素貯蔵庫(約40,000GtC, 単位はギガトンカーボン)であり、その貯蔵量は大気の約50倍、植生と土壌を合わせた分の約10倍以上であると述べました。また、GCBの推計によると、化石燃料の消費などによって大気中に放出されたCO2のうち、海洋は近年、正味として平均で年間約2.5GtCの炭素を吸収しており、1960年代(年間1GtC)以降、吸収量は増加傾向にあることを説明しました。

次にGCBに貢献している表層CO2観測データベースであるSOCAT(Surface Ocean CO2 Atlas)について紹介しました。2007年に発足したSOCATは、2011年にデータ公開を開始した後、2015年から毎年データ更新を行っており、GCBでは観測に基づく海洋CO2吸収量の評価に利用されています。中岡は、国環研と水産研究・教育機構による最新の観測データを毎年SOCATに提出していると述べました。特に国環研はSOCATにおいて北太平洋の責任機関になっており、各研究機関から提出される北太平洋の観測データを統一指針に基づいて評価するとともに、疑わしいデータを選別する等の品質管理を行っていると説明しました。また、国環研のCO2観測データはSOCATが高精度な観測と認める精度を満たしていて、国際的にも信頼性が高いデータセットとして認知されていると述べました。こうしたデータは、1995年から国環研が地球環境モニタリング事業の一環として行っている「定期貨物船を利用した太平洋温室効果ガスモニタリング」の下、トヨフジ海運株式会社等の民間貨物船舶の協力によって提供されていると解説しました。

GCBにおける陸域生態系の役割
加藤悦史(エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部 地球環境グループ)

2012年からGCBにかかわっている加藤悦史氏は、土地利用変化や気温・降水量の変化による陸域のCO2収支を把握することで、GCBに貢献していると紹介しました。近年、化石燃料燃焼によるCO2排出量は上昇し続けています。大気中に排出されたCO2の約半分は海洋と陸域生態系に吸収され、残りは大気中に残留しCO2濃度を増加させます。大気と陸域生態系の間のCO2収支は、エルニーニョやラニーニャなどの気候変動の影響を受け、変動しています。土地利用変化によるCO2排出は比較的変動が小さいものの、大気と陸域生態系の間のCO2収支に影響を与えています。森林火災などによる排出増があり、土地利用変化によるCO2排出推定には大きな不確実性があると加藤氏は述べました。

GCB 2019では土地利用モデルTrendy-v8(Land modelling protocol (Trendy-v8): Model simulations)で土地利用変化を含めた陸域のCO2フラックスのシミュレーションを行い、その結果はGCB2019のみならず、多くの論文でも取り上げられたと加藤氏は説明しました。

Global inversion of CO2 sources and sinks for the period 1996–2018(1996年から2018年における全球のCO2の排出/吸収の逆推計による理解の深まり)
Naveen Chandra(海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球表層システム研究センター)

Naveen Chandra氏は、時間依存インバースモデル(Bayesian Time Dependent Inverse models: TDI model)とMIROC4-ACTMフォワードモデルを利用し、1996年から2018年における世界の30地点での月ごとのCO2フラックス推定値をGCPに提供したことを紹介しました。1996年から2018年の間、北緯30度〜90度の海洋を除く陸域と海洋の全域で、CO2吸収は増えているとのことです。また、熱帯地域におけるCO2フラックスの年々変動が大きいのは、ENSO(エルニーニョ・南方振動)によるものだと分析しました。

この推定値は航空機による全球の74地点の鉛直方向のCO2観測結果をもとに検証されており、誤差は±0.5 ppm以内になっているとChandra氏は説明しました。さらに、CONTRAILプロジェクト[注]による観測で、東南アジア地域のCO2フラックスの年々変動の理解が進んだと説明しました。

水産研究・教育機構におけるCO2観測が支えるブルーカーボン
小埜恒夫(水産研究・教育機構国際水産資源研究所 外洋資源部 国際資源環境グループ)

小埜恒夫氏は沿岸域を中心とする日本の排他的経済水域内で2010年度から実施しているCO2観測について紹介しました。この観測は2014年以降、国環研との共同研究として実施されており、これまで約10万点のデータをSOCATに提出していると述べました。

沿岸域でのCO2観測の目的は、海洋のCO2吸収について観測に基づく評価と数値モデルとの間にある1Gt程度の不確実性について、その要因の一つと考えられる沿岸域のCO2吸収の評価を精緻化する必要があることと、ブルーカーボン(海洋生物によってCO2が取り込まれ、海域で貯留された炭素)がどのくらいになるのかを解明するために実施しているとのことです。伊勢湾、東京湾、仙台湾等での観測により、沿岸域で外洋に比べて塩分が下がる海域ではほとんどのケースでCO2濃度も下がることがわかったと述べました。また、ブルーカーボンは浅海域だけではなく、沿岸沖合域でも起こっていて、仙台湾では月に約300tC(トンカーボン)、伊勢湾で約6000tCのCO2吸収が見積もられると説明しました。

小埜氏は、陸から流入された栄養塩が浅海域でどれくらい使われてCO2吸収が起きるかを科学的に解明していくことが、ブルーカーボンを推進していく上で重要であると結びました。

パネルディスカッション

講演の後、ファシリテーターにJittrapirom事務局長、山形代表と4人の講演者がパネリストとなり、パネルディスカッションと参加者との質疑応答が行われました。パネリストからはGCBへの貢献により、ローカルな研究が国際的な研究へと展開していったことやIPCCの評価報告書への貢献にもつながったこと、また研究のモチベーションになっているとの意見がありました。会場の参加者から、「講演のなかで、海洋の研究コミュニティは観測データをまとめてデータベース化するという管理体制ができているという発表がありました。大気の研究コミュニティはその点ではまだ少し遅れているので、GCPには大気の観測データ管理のリーダーシップをとっていただきたい」という要望が出されました。

山形代表は、「クローバルなGCPの成果にいろいろな研究機関の方たちが貢献した結果、お互いに情報共有でき、GCPにとってもいい機会になりました。今後、GCPが国内でも国外でも気候変動政策の推進のためにさまざまな役割を果たしていければいいと思います」と述べました。

左から:山形代表、中岡主任研究員、加藤氏、Chandra氏、小埜氏、Jittrapirom事務局長

脚注

  • 国立環境研究所、気象研究所、日本航空株式会社、株式会社ジャムコ、JAL財団が共同で実施している、日本航空の旅客機を用いた温室効果ガスの観測プロジェクト。

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