2020年3月号 [Vol.30 No.12] 通巻第351号 202003_351009

環境活動家と気象学者のやさしい話から地球の未来を考えよう

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2019年12月30日(月)、茨城県つくば市のイオンモールつくばで、地球の未来を考える会[注]主催によるセミナーが開催されました。主催者の計らいで親子シートを設けたこともあり、当日は小さいお子さん連れの女性も多数参加しました。セミナー前半は地球環境研究センター副センター長の江守正多とドイツ在住の環境活動家の谷口貴久氏による講演があり、後半は2人の講演者と会場の参加者との間で質疑応答が行われました。

気候の危機は止められるか? 地球温暖化と私たちの未来
江守正多(地球環境研究センター 副センター長)

1970年神奈川県生まれ。
東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。
1997年より国立環境研究所に勤務。地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室長等を経て、2018年より同副研究センター長。2016年より低炭素研究プログラム総括、社会対話・協働推進オフィス代表(すべて兼務)。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次・第6次評価報告書主執筆者。

地元つくばで気候変動に関する話をする機会を得たことと谷口さんとご一緒できるのを非常に楽しみにしています。

地球温暖化はどうして起こるのか

地球は太陽から熱を吸収し、宇宙に向かって赤外線という形で熱を放出しています。地球の周りにある大気中には二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスと呼ばれる成分が入っていて、そのおかげで宇宙に逃げていく赤外線を一部吸収して熱を閉じ込めるので、地球はちょうどいい温度になっています。今、人間活動によって大気中のCO2がどんどん増えて、より熱が閉じ込められるようになり、地球の温度が上がっています。

地球の温度は本当に上がっているのか

1950年から最近までの地球の温度変化を見ると、地球のなかには勝手に変動する仕組みがあって、ゆらゆら温度が上下しています。ところが、1980年代以降、地球の温度上昇が大きくなっています。地球の温度は自然に変動するのですが、最近の温度の上がり方は、人間によって大気中に排出されたCO2の増加(大気の温室効果の強まり)を計算に入れないと説明できないということが科学的に理解されています。

温暖化すると何が起きるのか

温暖化すると心配なことが起こります。(1)海面上昇。温度上昇により陸上の氷が融けると海水が増えます。また、海水が温まると膨張するので、海面が上がります。海面が上昇すると、海抜の低い島国は消滅してしまうかもしれません。(2)洪水や(3)強い台風。空気が暖まると水蒸気をたくさん含むので、その分だけ低気圧がきたときに大雨が降り、洪水が増えます。台風による強い風の害も起こります。(4)熱波。暑いと熱中症が増えます。(5)食料不足や(6)水不足。深刻な影響があるのは発展途上国で、特に乾燥しているところに住んでいる人たちです。そういうところでは、温暖化が進むほど雨がさらに降りにくくなり干ばつになって、農業ができなくなったり飲み水がなくなったりします。(7)海の生態系の損失や(8)陸の生態系の損失。温度の変化の速度についていけない植物などは条件が悪くなってどんどん減っていくかもしれませんし、最悪の場合は絶滅するということが起きます。

温暖化にどうやって備えていくのか

新しい気候に合わせていくことを適応といいます。たとえば熱中症にならないようエアコンを適切に使う、農業は品種改良するなど、適応していくことは大事なことです。しかし温暖化がどんどん深刻化すると適応するだけでは追いつかなくなり、温暖化そのものを止めなければなりません。そのために、2015年のCOP21で合意されたパリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く保つとともに、1.5°Cに抑える努力を追求する」という長期目標を決めました。

2°Cと1.5°Cはどれくらい違うのか

2°Cと1.5°Cの温暖化はどれくらい違うのかということを科学者が調べてまとめた報告書が2018年10月に出ました。報告書によれば、現時点で産業化以前を基準に既に約1°C温暖化しており、このままのペースなら、2040年前後に1.5°Cに到達してしまいます。つまり、あと0.5°Cです。その0.5°Cはあと20年前後できてしまいます。そして、1.5°C温暖化したときの悪影響のリスクは、現在よりもはっきりと高くなり、2°C温暖化すればさらに高くなります。ですから、できればあと0.5°Cで止めたいのです。さらに、温暖化を1.5°Cに抑えるには、世界全体の人為的なCO2の正味排出量が、2050年前後にゼロになる必要があります。あと30年のうちに世界でCO2排出を実質ゼロまでにしなければならないのです。

CO2はどこから出ているのか

CO2はエネルギー源をより使いやすい形態に転換する工程からもっとも多く排出されています。つまり、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やしてエネルギーを作るときにCO2が出ます。世界のエネルギーが現在何によって作られているかというと、石炭、石油、天然ガス、原子力、水力、水力以外の再生可能エネルギー(太陽・風力など)です。世界のエネルギーの8割くらいはまだ石炭、石油、天然ガスで作られています。石炭利用は最近減り始めていますが、石油、天然ガスはまだ増え続けています。世界全体で見ると、インド、アフリカ、東南アジアで人口が増えています。そして、中国も含めてこうした国は経済成長していますし、特に現在貧しい国はこれから工業化していきます。そうすると今まで以上にエネルギーが必要になり、発電所も車も増えます。それによって石油、天然ガスの量が増えざるを得ないのです。再生可能エネルギーは加速度的に増えていますがエネルギー全体に占める割合はわずかです。CO2を出さない太陽や風力をどんどん増やして、化石燃料分を置き換えることがあと30年でできるかという挑戦を世界が始めているのです。この大きなスケールの話を私たちがどう認識して、理解して、どう参加していったらいいのかということを今日皆さんと話ができればいいと思っています。

世界のエネルギー源の推移

子どもの将来のために行動するかっこいい大人でありたい
谷口貴久(環境活動家)

大阪府出身。大学はITを専攻し、イギリスへ留学。大学在学中にインターネットビジネスで起業。現在はグローバルIT企業の役員(COO)を務めながら、社会課題解決を志し、ドイツへ移住/起業。環境関連貿易事業、「時間と共に価値が減るお金」の発行に取り組みながら、気候危機阻止の為の活動(情報発信/集会/講演など)を実施。趣味は旅と勉強で、訪れた国は50ヵ国以上、保有資格は国際資格/国家資格を含め40個。飲むとポンコツになる31歳。

今日は江守さんとお会いできて光栄です。現在、僕は気候変動を止めるための活動をドイツで16歳未満の子どもたちと一緒に行っています。

2019年7月23日、日本では報道されなかったのですが、世界中で報道されたことがあります。「Climate change: 12 years to save the planet? Make that 18 months」気候変動や地球温暖化といわれる問題を人類が生き残れるレベルに抑えられるかどうかはこの18か月の行動にかかっている、ということです。

「子どもを産みません」宣言

ドイツでは新聞やメディアで気候変動のことが報道されない日はありませんが、住んでいる人の意識を知りたくなり、たまたま飲み屋で知り合った気さくな男性に気候変動についてどう思うか聞いてみました。男性はそれまで楽しそうに話していたのですが、話題が気候変動になったとたん空気が変わってしまいました。「僕らは最近やっと子どもを授かった。すごくうれしかったが、この問題のせいで今は子どもをもったことを後悔している」と言うのです。そんな答えが返ってくるとは思わなかったので結構ショックでした。その時は一意見くらいにしか受け止めてなかったのですが、2019年9月半ばに、カナダで18歳の女の子が、大人たちが気候変動対策に取り組んでくれるまで子どもをつくらないという、「子どもを産みません」宣言を始めました。その後世界中の同世代の女の子が賛同し、一か月くらいで5000人以上が宣言をしました。

将来が存在しないのになぜ勉強するのか

現在、世界中で16歳未満の子どもが学校に行かなくなっています。平日、「そろそろ本当になんとかしてください」と大人に訴えかける集会をしています。僕が住んでいるところは都会ではないのですが、それでも4万人以上集まっています。都会ではもっと多いです。僕の家の近くで行われている活動の主宰者は14歳の女の子です。僕も彼女と一緒に毎週活動していますが、この活動をしている理由を聞いたときの彼女の答えが、僕が一緒に活動を始めたきっかけです。彼女は、「大人たちは子どもに自分の将来のために学校に行って勉強しなさいと言います。言われた通り自分の将来のために学校に行って勉強してわかったのは、私たちに将来なんて存在しないということ」と言うのです。ドイツでは気候変動の問題について学校で学びます。さらに「大人たちはみな口をそろえて子どもが一番大切と言うのに、本当に私たちの将来を守るために行動してくれている大人を私は一人も見たことがない」と話すのです。16歳未満は日本と同様ドイツでも投票権がありません。政府の気候変動への取り組みという自分たちに大きい影響がある方針の決定に、投票という方法で自分たちの意思を表示できないので、逆に学校で教育を受けるという権利を放棄して大人たちに訴えていると言うのです。僕も大人です。「大人たちが何も動いてくれない」と言われたときにはとてもショックでした。「他の大人は動いてくれないけど、あなたはちゃんと私たち子どもたちの将来を考えて行動してくれているね」と彼女に言ってもらえる大人でありたいと思い、一緒に活動しています。また、いろいろな形で発信もしています。そうするとご意見だけではなく攻撃みたいな内容もたくさんいただきます。僕は一切気にしないのですが、まずいなと思っていることがあります。攻撃してくる人たちは自分で声を挙げ、投票などによって意思表示することができるのです。しかし、この問題の影響を一番受ける子どもたちは自分たちで声を挙げても、社会的に自らを守ることができません。問題を生み出してきた側、対策に取り組まなければいけない側が保身のために声を挙げていて、問題を生み出していないのに影響だけを受ける側は声を挙げても自分たちを守れないというアンバラスで理不尽な構図がとても嫌いです。こういう弱い立場の人たちに寄り添って、かわりに声を挙げて守ってあげないと、後で後悔してももう守れなくなるようなポイントを迎えようとしています。

自宅近くの集会には4万人以上が集まります

3つの希望

ちょっと暗い話をしましたが、三つ大きな希望があります。一つ目は私たちがまだ、気候危機という問題の深刻さについて知らないことです。みんなが知っているのにここまで深刻な状況だったらそれは絶望的です。でも、今まで知らなかった人がこの深刻さを知ったら変わります。そこでまずは知ってもらおうと思い、僕は2019年9月の国連の気候行動サミットの時期に日本に帰国し、47都道府県を回って講演しました。

二つ目の希望は、私たちがまだ、自分のもつ力について知らないことです。政府、企業、メディア、銀行などは、そもそも私たちによってずっと支えられてきたものです。政府は投票で、メディアは見るという形で、企業からは物を買ってお金を流していますし、銀行も預金して支えています。そういう私たちの支援先を選ぶ行為を変えると世界を変えることができます。ですから、日々の何気ない行動にどれだけすごい力があるかというのを気づくのが気候変動に対処する2つ目の希望だと思っています。

3つ目の希望として、気候危機には大きなチャンスが二つあるということです。一つは、日々の生活のなかで知らず知らずのうちにお金を中心に物事を考えて、そのために地球環境を破壊しても構わないみたいになっている経済システムを見直す絶好のチャンスです。二つ目は、気候変動は、全員に少しずつ原因があり、影響があるので、全員で協力してまとまらないと乗り越えることができない共通の課題だということです。この課題を与えられて、人類が一つにまとまるチャンスだと思っています。

私たち大人は気候変動の影響を受ける最初の世代でこれを食い止めることができる最後の世代でもあります。きちんと行動して、本気の大人のかっこいい背中を子どもたちに見せていけたらと思っています。

質疑応答

講演の後、会場の参加者からのさまざまな質問に講師の二人が答えました。その一部を紹介します。

Q:なぜヨーロッパと同じような気候変動に関する情報が日本では入ってこないのでしょうか。また、私たちでもできることをアドバイスいただければと思います。

江守:日本における気候変動の問題はメディアにとっても政治にとっても優先順位が高くないことが考えられます。実は、新聞社やテレビ局で気候変動に関心のある人は必ずいますし、とても頑張っています。しかし、視聴率がとれないテレビ番組は作ろうとしませんし、売り上げが落ちるとしたらそういう記事を新聞に載せる気がしないのでしょう。ということは、私たち、消費者、視聴者の意識も関係してきているわけです。政治については、ヨーロッパやほかの国では気候変動問題が選挙の争点になりますが、日本では選挙のとき誰も気候変動対策については言いません。

谷口:メディアが報道しない理由は二つあると思っています。一つは私たちが見ない(= 関心がない)からです。番組担当者は視聴率を気にしますから、有名人の逮捕より気候変動のニュースを選べる人はたぶんいないと思います。それでも、2019年11月26日に国連環境計画(UNEP)が発刊した「排出ギャップ報告書(Emissions Gap Report)2019」のなかに、日本に今計画中の石炭発電所の全中止を求めますということが書かれています。その日以降新聞もニュースも気候変動の報道が増えているので、見てあげてください。

二つ目はスポンサーの問題です。石炭発電の会社がスポンサーになっている局では気候変動問題を流せないのです。

では私たちに何ができるかというと、見るという行為でメディアに伝えて、投票という形で環境問題に取り組んでいる政党を応援して、環境を軸に買う物を選ぶことができます。価値観を押し付けるのは好みませんが、もし石炭発電や原発をなくしたいと思っているなら、石炭発電や原発を進めている企業に融資していない銀行に預金を移し替えるだけでその対策になる可能性が大きいです。大きな力をもつのは、投票、買い物、預金、視聴率だと個人的には思っています。

江守:私たちができることについて、私が実際に行ったことを紹介します。日本では気候変動が選挙で争点にならないのでなかなか投票で活かすことは難しいのですが、2019年7月の参議院選挙のとき、駅で候補者に、「あなたの気候政策を聞かせてください」と尋ねてみました。これは選挙権がなくてもできます。子どもが候補者に近寄って行って、「あなたは温暖化を止めてくれるのですか」と口々に言ったら候補者は聞かざるをえなくなります。そういうところから少しずつ優先順位を上げていかなければなりません。また、先日、加入している保険のアンケートに「石炭には投融資しないようにしてください」と記入しました。そういうちょっとしたところに機会があって、みんながそれをやると影響を及ぼすことができるのかなと思います。

脚注

  • 環境活動家の谷口貴久さんの活動に賛同するつくば市、石岡市在住の子どもをもつ母親4人で創設。美しいこの地球をこのまま傷つけ、汚し続けていていいのか?ということを考えながら、自然に優しいもの、環境に優しいものを個人的に選んで生活していた主婦が、台風の被害、グレタ・トゥーンベリさんの演説を聞き、気候変動危機対策の緊急性を感じ、より多くの人に考えるきっかけを提供したいという思いで参集。

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