2020年3月号 [Vol.30 No.12] 通巻第351号 202003_351007

大成建設株式会社の皆様と地球温暖化に関する意見交換会を行いました

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2019年12月11日(水)、大成建設株式会社本社において、地球環境研究センター研究調整主幹の広兼克憲が、土木設計部の職員の皆様に、地球環境研究センターでの研究内容や地球温暖化に関する最新の動向について講演しました。講演後、同社の若手職員を含む現場の職員の皆様との間で意見交換会が行われました。本稿では、意見交換会の概要を紹介します。

1. 2018年度の日本の温室効果ガス総排出量(速報値)は12億4,400万トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、前年度比3.6%減(2013年度比11.8%減、2005年度比10.0%減)

「日本の温室効果ガス排出量は年々下がっていると講義のなかで紹介されましたが、本当に日本で削減されていると観測できているのか」という質問がありました。広兼は、現在、削減量は観測ではなく燃料消費などの統計を用いた上で算出されるとした上で、人工衛星で削減効果等が観測ができているかについて、「たとえば東京の風下と風上でCO2濃度が違う(風下の方が濃度が高くなる)ということは検知できます。今後、人工衛星で測れるポイントをもっと密にしていければ、その地域全体で以前に比べて排出を削減できたかどうかを観測により把握できる可能性は十分にあります」と説明しました。

また、「日本の温室効果ガス削減目標(2030年度に2013年度と比較して26%削減)を達成するための対策をとっていくことは、重機を扱う建設業にとっては難しい課題で、法律である程度負荷をかけないと無理なのではないか」という意見がありました。広兼は、「現在、日本では削減義務を排出者等に課してはいないが、欧米が基準年を1990年としているのに対し、日本は2011年の東日本大震災後に原子力発電所が止まってCO2排出量が多かった2013年を基準としています。26%削減の内訳としては、多くの排出をしている産業部門での大きな排出削減を期待しているのではなく、家庭や業務部門で大量に減らす計画となっています。建設業も含めて日本の産業部門は今まで努力して排出を減らしてきたからこれ以上減らすのは困難ということなのですが、依然排出量が多いのは産業部門ですから、もっと努力してほしい」と話しました。

「法的な面では、平成28年4月から地球温暖化対策税が導入されました。これは、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、環境負荷(CO2排出量)に応じて広く公平に負担を求めるものです。しかし、日本における税率は諸外国に比べて低いレベルであり、CO2削減に直結する世界スタンダードの炭素税は、環境省でもまだ検討中とのことです」と、広兼は説明し、「地球温暖化に伴って頻発している災害などから命を守る行動をとるためには、建設業でも今までとは違う対応が求められてくると思うので、是非、これまでのノウハウを活かしてほしい」と要望しました。

2. ネガティブエミッションの重要性

バイオマス発電[1]に携わっているという職員から、「バイオマス発電がCO2排出ゼロといっても、そのためにCO2を固定している木を伐採するのなら、切らずに固定したままのほうが環境的にはいいのではないか」という質問がありました。広兼は以下のように解説しました。「考え得る最も早い大気中からのCO2除去はやはり植物の力ですが、たとえば、木材を建設物として長期間置いておけば、温暖化対策について時間を稼げるということはあります。さらに、バイオマスを燃やして、それから出るCO2を地中に埋めると、どんどん大気からCO2を除去することになります。これは、ネガティブエミッションと呼ばれるもので、これをある程度できればパリ協定を達成できるかもしれないという試算もあります」。

「今後、国が、化石燃料に頼る発電の方法を認めないという方向に進んでいく可能性はあるのか」という質問が出されました。広兼は、「化石燃料をまったく使用しないというのはすぐには難しいとしても、石炭よりも高効率の天然ガスをうまく利用して時間稼ぎをするという考えがあること、また、CO2を出さない火力発電、つまり、発電時にCO2の回収を組み合わせることは考えられます」と答えました。

別の職員からは、「内燃機関の燃焼によって発生した熱が地表付近の温度を上昇させると考えていますが、まったく熱を発しないものに変えてもCO2は排出されるので、CO2濃度が高くなり温度も上がるのか」という質問がありました。これについて、広兼は「熱を出して直接空気に伝える熱伝導分のエネルギーを1とすると、温室効果により大気が赤外線を吸収して空気を温めるエネルギーは数十以上に相当します。ですから、仮に熱を出さない効率100%のエンジン(モーター)ができたとしても、その過程でCO2を大気に排出すれば当然温度は上がります」と答えました。

3. CO2削減は不可能なことではない

 

生活面から「電気でいろいろなことができ楽になり、生活が豊かになっているので、なかなかそれを手放すことはできそうにありません。思い切ったCO2削減を進めるなら個人の努力に頼るより、国が積極的に規制をかけていくほうがいい。そうすれば、それを追うように技術革新も進むと思います」という意見がありました。それについて、広兼はかつて自分が環境庁に勤務していた1992年当時に制定された自動車NOx・PM法[2]を例にとって、意見を述べました。「自動車NOx・PM法は非常に規制が厳しく、基準に合わない車は車検が通らないので買い替えろというものでした。当時私のところには自動車を使えなくなって困ったというクレームの電話が多数かかってきて、その対応に追われました。30年前はこの法律がすぐには効果を示さなかったこともあり、将来本当にうまくいくのかまったく自信がなかったのですが、その後しばらくしてNOx法が目指した大気環境は実現されつつあります。ですから、地球温暖化も、このように思い切った対策をすれば、効果が期待できるのではないかなと思っています」。

また、「地球温暖化によって人間が生活しやすいエリアが増えて、地球全体にとっていいこともあるのではないか」という意見があり、広兼は、あるかもしれないとしたうえで、「しかし多くの地域において、現在のような環境の変化の速いスピードについていけるかという問題はあります」と答えました。

4. GOSATの可能性に期待

 

温室効果ガス観測技術衛星(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT、愛称「いぶき」)が地球温暖化の原因といわれているCO2やメタンなどの温室効果ガスを宇宙から測定しているということを初めて知ったという人が何人かいました。そのなかで、「GOSATを改良して、各会社のCO2排量出を測定し無償で情報提供してもらえると、「見える化」になるので、そういう研究を進めてほしい」という要望がありました。広兼は、「まだちょっと時間がかかると思いますが、そういうことを目指しています」と答えました。

また、「GOSATが高い精度で測定しているというが、精度はどのように検証しているのか」という質問がありました。それについては、「GOSATは直接温室効果ガスを測っているのではなく、電磁波の吸収という性質を利用して、大気中濃度を推計するのですが、そのためにいろいろな連立方程式を組み合わせて再現性を補正しています。また、同じ型のセンサーを用いて地上からも同時期同時刻の大気中温室効果ガスを測定しており、それと比較することによる精度検証も行っています。さまざまなところに誤差が入る可能性はあるのですが、こういう算出をすると正しい値に近づくという検証をしています」と広兼は説明しました。

講師所感

今回のように建設の現場でお仕事に携わる方々と意見交換する機会はなかったので、私自身としても大変勉強になりました。現場の皆様が感じている地球環境保全に関する率直な疑問や意見についても把握することができました。

今後、地球温暖化に伴ってこれまでにない極端気象への対応など、建設関係者との連携・調整も必要になってきます。社会のインフラは次世代に引き継いでいくものであり、気候変動の影響とともに、若い世代との緊密なコミュニケーションのもとで、将来計画を作っていく必要があります。今後もこういう機会を設けて、幅広い情報収集を行い、我々の仕事にもポジティブに活かして参りたいと思います。

脚注

  1. 動植物などから生まれた生物資源を「直接燃焼」したり「ガス化」するなどして発電すること。地球温暖化対策としては、光合成によりCO2を吸収して成長するバイオマス資源を燃料とした発電は「京都議定書」における取扱上、CO2を排出しないものとされている。
  2. 自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法で、指定された地域(対策地域)で、トラック、バス等(ディーゼル車、ガソリン車、LPG車)及びディーゼル乗用車(指定自動車)に関して特別な窒素酸化物と粒子状物質の排出基準を定め、これに適合する窒素酸化物と粒子状物質の排出量がより少ない車を使ってもらうための規制。対策地域を使用の本拠としている指定自動車で、排出基準に適合しないものは、一定期間を経過した後は使用ができなくなる。

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