2020年3月号 [Vol.30 No.12] 通巻第351号 202003_351006

愛媛大学で講義を行いました —地球温暖化問題の基礎的事項—

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2019年11月18日(月)と25日(月)、地球環境研究センター研究調整主幹の広兼克憲が、愛媛大学工学部の非常勤講師として、地球温暖化に関する基本的な知識に関する講義を行いました。これは、地球温暖化をめぐる環境研究や国際情勢、日本政府の対応などについて教養学部の学生にわかりやすく説明することを目的として、2017年度から始まった地球環境研究センターと愛媛大学工学部との連携授業です。本稿ではその概要をご紹介します。なお、2017年度及び2018年度の講義概要は「愛媛大学での講義録『地球温暖化とその緩和策・適応策』」2018年4月号「愛媛大学で講義を行いました—地球温暖化とその緩和策・適応策—」2019年3月号をご参照下さい。

1. 地球温暖化めぐる若い世代の主張・現在・過去・未来

(1)世界の若い世代が訴える地球温暖化とは?

講義を始めるにあたり、将来を担う若い世代が地球温暖化問題に対してどのように考えているのか、1992年にブラジルで開催された地球サミットでのセヴァーン・スズキさん(カナダ、当時12歳)と2018年のグレタ・トゥーンベリさん(スウェーデン、当時15歳)のスピーチをそれぞれ聞いていただきました。

その後、将来の予測として、2014年に国連の専門機関である世界気象機関の呼びかけに応じて日本で制作された地球環境研究センターの江守正多副センター長と井田寛子気象予報士が解説する「2050年の天気予報」という約5分間のビデオを見ていただきました。

セヴァーンさんやグレタさんのスピーチについて、学生のみなさんは、自分たちより若い世代が将来のことを真面目に考えて、大人に意見していることを率直に受け止め、あらためて気候変動を遠い将来のことではなく、自分ごととして考えるきっかけにしてくれたようです。このような主張の仕方については様々な見方もあるため、学生さんが関心を持ってくれるか不安もあったのですが、それは杞憂でした。このビデオの内容は、インターネットで閲覧できますので読者の皆様にも是非ご覧いただきたく存じます。筆者は約30年間、地球温暖化問題に携わる立場にあったのですが、地球サミットから28年経った今でも、我々大人は子どもたちが抱える不安をまったく払拭できていないことにもどかしさを感じてしまいます。

(2)温暖化の将来予測にはすでに現実化しているものもある

さらに、「2050年の天気予報」の中で、2050年に起こると予報していた東京の観測史上最高気温は、実は2018年に東京の青梅市で記録(40.8°C)されてしまいました。そして、臨海大都市で起こると想定されていた台風時の高潮被害は、同じく2018年に関西空港(台風21号直撃)で現実に起きてしまったという皮肉な事実も見ていただきました。

このことから、そんなにすぐに起こるはずがないだろうと考えていた気候変動の影響がすでに起こっていることが、実感できたのではないかと思います。

写真1 縦に長い教室で講義を受ける学生さん

(3)理科系の学生さんの関心力に期待する

受講者は大学1年生の理科系志望者ですので、最初に地球温暖化の基本的なメカニズムを科学的な観点から少し詳しく説明しました。テレビや新聞では時間的・紙面的制約からどうしても簡略化された説明となってしまいます。地球温暖化のメカニズムをきちんと自分で考えて理解することにより、この問題をめぐる種々の議論についての判断力が身につくのではないかと思います。

講義では、例え話を使って温室効果の基礎メカニズムを説明しました。なぜ温室効果ガスとそうでないガスがあるのか、熱とは何か、気体のランダムな運動と気温の関係などにも触れ、詳しく知りたくなった方には「大気放射学」という学問分野があるので、専門課程に進んだらさらに勉強してもらいたいと伝えました。

2. データが示す地球温暖化

(1)地元の気温はどうなっている?

主要な温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の大気中平均濃度は、産業革命前には約280ppmで安定していましたが、ここ数十年で急速に増加し、現在は400ppmを超えました。これとともに地球の平均温度も上昇し、愛媛大学のある松山市でも1890年から2018年の間に100年あたり1.8°Cの割合で年平均気温が上昇しています。なお、この上昇には地球温暖化に加えてヒートアイランド効果なども加わっています。

図1 気象庁アメダスで観測された気温データの推移をエクセルでグラフ化したもの

(2)温室効果ガスの観測

次に、国立環境研究所(以下、国環研)が進めている温室効果ガスの観測について紹介しました。国環研は波照間島(沖縄県)と落石岬(北海道)にある地球環境モニタリングステーションでCO2濃度を毎日観測しています。CO2濃度は植物の光合成の影響を受け、一年のうちでは、春先の4〜5月頃に一番高く、8月〜9月に一番低くなります。

図2 日本とハワイで観測された地上での二酸化炭素大気中濃度の推移

他の機関と共同で進めている観測についても紹介しました。例えば、環境省、国環研、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で推進しているGOSATプロジェクトでは、人工衛星によって宇宙からCO2やメタンの濃度を観測しています。2009年に打ち上がったGOSAT1号機は10年を超えた今でも貴重なデータを地球に送り続けていますが、2018年10月29日に打ち上がったGOSAT-2により、今後さらに新しいデータ(精度や種類を含め)が出てくることを説明しました。

(3)地球温暖化の影響

「2050年の天気予報」のビデオの中でも地球温暖化による影響の一部が紹介されていましたが、IPCCの最新の報告書等に基づき、地球の温暖化に伴う気候変動が引き起こす様々な影響を改めて紹介し、解説しました。

図3 IPCC海洋と雪氷圏に関する特別報告書による今後の海面水位予測

実際に、愛媛県では、近年これまでにない豪雨等により甚大な影響が起こっています。これらに地球温暖化が少なからず影響を及ぼしていることは皆が感じているところだと思います。豪雨や台風だけでなく、海面水位の上昇や農林水産業への影響についても説明を行いました。

実験:海はCO2を吸収する?

石炭や石油を使って排出されたCO2の半分はそのまま大気中にとどまり、残りの半分は陸上の植物と海水に吸収されます。本当に海がCO2を吸収するのか、さらにその海水の酸性度に影響が出るのかを簡単な実験で確かめました。

実験は、液体の酸性・アルカリ性を調べる溶液(BTB溶液)を混ぜた海水入りの小瓶に、CO2を強制的に注入して、振り混ぜた時の色の変化を観察するというものです。海水は弱アルカリ性(BTB溶液は青色:写真右)ですが、小瓶に人間の息(大気中の50倍の濃度である約2%のCO2が含まれる)を吹き込み、よく振ると海水は酸性(黄色:写真左)に変わります。この状態で再度小瓶の蓋をあけ、今度は呼気を追い出して部屋の空気と入れ替えて振り混ぜる(換気する)と、また元に近い青色(写真:中)に戻ります。色が変わるたびに学生の間から歓声が上がっていました。

CO2が大気中に増えると、地球温暖化を進めるだけでなく、海にCO2が溶け込み海水が酸性化します。酸性化が進むと海の生物が炭酸カルシウムを作れなくなり、たとえばウニや貝などの堅い殻(炭酸カルシウム)をもつ生き物に影響が出ると報告されています。IPCCの報告書でもこのことに焦点が当てられています。

観測された海水のpHと大気中二酸化炭素濃度の関係

3. 温室効果ガス排出量と地球温暖化対策

(1)パリ協定

2015年に採択され、2016年に発効したパリ協定では、産業革命前からの平均気温上昇を2°Cより十分低く抑え(さらに1.5°Cを目指す)、今世紀後半には人為起源の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることが合意されました。

講義では、国連気候変動枠組条約が目指すもの、京都議定書とパリ協定の違いなどを解説し、日本政府が条約事務局に提出した2030年までの温室効果ガス削減計画についていくつかの事例(LED電球への転換、自動車の電動化・燃料電池化など)を説明しました。

写真2 今後の日本の削減目標について解説

2016年の世界のCO2排出量は、中国、アメリカ、インド、ロシアの順で、日本はそれに次ぐ世界第5位の排出大国です。一人あたりの排出量では日本は9トンなので、世界平均の約2倍です。国別排出量1位の中国など他国の取り組みへの期待も重要ですが、日本は自ら模範となる削減を実施しなければなりません。

(2)今、日本は

パリ協定を踏まえ、日本政府は地球温暖化対策計画を2016年5月に閣議決定しました。

地球温暖化対策計画では2013年度(東日本大震災後、国内の原発が止まり、CO2排出量が高いとき)を基準として、2030年度に26%削減するという目標になっています。しかし、削減目標は各部門一律ではありません。削減が十分進んでいると思われている産業部門で6.5%、家庭部門と業務その他部門ではそれぞれ約40%です。具体的な目標達成方法として、業務その他部門でLEDなどの高効率照明をストックで(新製品販売だけでなく既存購入品も含め)100%にすることなどを掲げています。家庭部門では実質的にCO2の大気への排出がないゼロエミッション住宅の推進などを進めていくことが計画されています。日本の2030年度削減目標は他国の数値と比較してチャレンジングなものとはいえませんが、それでもこれを達成するのは大変です。

図4 各国が国連に提出した2020年以降の温室効果ガス削減目標

長期的にはさらに20年後の2050年までに80%削減、2100年にはゼロかマイナスにしなければパリ協定の目標に達しません。今後は、これまでの対策の延長ではなく、技術やライフスタイル、経済社会におけるイノベーションなどの大きな転換が必要になるでしょう。最初に見たビデオでグレタさんが語っていましたが、2050年はそんなに遠い話ではなく、今からそれを見据えた社会づくりを始めなければなりません。

図5 これから必要になってくる技術や考え方の例(筆者の私見です)

体験:自転車で発電

エネルギーは目に見えません。現在、私たちはスイッチ一つであかりをつけられますが、それがどれくらいのエネルギーを必要とすることなのかを実感する機会はなかなかありません。そこで、今回も学生さんに教室の中で自転車をこいでもらい、そこで発電したエネルギーであかりをつけてもらいました。

LEDなら、それほど力を入れなくても10個以上点灯できますが、白熱電球を明るくつけようとすると坂道を登るような、かなりの力が必要です。この体験で消費電力の違いをペダルの重さを通じて理解していただきました。また、発電所(この場合、学生さんの脚力)のパワーが弱くなると多くの電球がチカチカして安定しない、いわゆるブラックアウトが起きる前の状態も体感していただきました。さらに、不安定な自然エネルギーを効果的に利用するためには、電気を貯める蓄電池が不可欠になります。電気を貯めるのは簡単なようで難しく、将来、この分野のイノベーションが期待されます。自転車発電では小さなポンプで水を汲み上げる体験もしてもらいました。エネルギーをいったん位置エネルギーに変えて、あとで汲み上げた水の力を水力発電として利用する実験(ミニ揚水発電)として理解していただきました。

自転車発電に学生さんがチャレンジする様子

4. アンケート集計結果

講義の後、地球温暖化問題に関する意識についてのアンケートをお願いし、85人から回答をいただきました。主な質問と回答の概要は以下のとおりです。

(1)気候正義(climate justice)という言葉をご存知ですか?

Yesと答えた人は残念ながら1名しかいませんでした。昨年度に引き続き、なかなかこのキーワードは認知されないようです。気候正義(地球環境豆知識 [34] 2018年4月号参照)とは、気候変動問題は(因果関係を踏まえた加害者と被害者が存在する)国際的な人権問題であって、この不正義を正して温暖化を止めなければならないという考え方に基づく言葉で、世界各地で気候正義を求める社会運動が展開されています。海外では学生たちが、この考え方に基づいて政府に対策を訴えたり具体的な活動をしたりすることも多くなっています。

(2)パリ協定では今世紀末までに世界における温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。これは実現可能だと思いますか?

「可能と思う」(5人)、「不可能と思う」(60人)、「わからない」(20人)で、半数以上の人が実現が不可能と答えていました。可能と思う理由については、研究や技術の進歩を挙げた人が多く、不可能と思う理由については、「どう考えても理想論。中国やアメリカが守るとは思えないし、正直、日本も守るとは思えない」や「今まで地球温暖化を抑制するための対策を何度もたててきたはずだが、結果が出ていないため」という回答がありました。わからないの理由には様々なものがありましたが、例えば「どのようなことが行われているか知らない」などの意見もありました。

(3)あなたにとって、地球温暖化や気候変動は身近な問題ですか?

「身近なこととして感じる」(75人)、「自分には関係のないところで起きている」(9人)でした。「身近なこととして感じる」と答えた人の理由としては、実際に異常気象を体験したり(愛媛県は2018年7月の「西日本豪雨」の被災地)、テレビで見たからというのが最も多いものでした。

(4)パリ協定の目標を達成するために必要なことは何だと思いますか?

新しい制度の創設、科学技術の進展、ライフスタイルの変化から複数回答可で質問した上記の問いに関する回答は「新しい制度の創設」(47人)、「科学技術の進展」(59人)、ライフスタイルの変化(50人)という結果でした。

その他としては、「(将来に対する情報としての)リアル感が必要(2050年の天気予報などは良い)」などの回答がありました。情報のわかりやすい伝え方も目標達成に必要と考える方もいるようです。また「意識改革」という意見も複数ありました。

(5)講義を聞いて、地球温暖化問題に関するあなたの考え方に変化がありましたか?

様々な意見がありましたが、多くの方(65人)が講義を聴いて自分の考え方が変わったと回答しました。具体的な意見としては、例えば「(若い世代の)スピーチが心に残った。次の世代につないでいかないといけない」とか「早急にCO2を削減する必要があり、あとまわしにしてはいけないことだと感じた」のように、この問題を自分ごととして考えるきっかけを作っていただけたように感じました。

(6)自由記述の意見から

アンケートの中の自由記述欄にいくつも参考になる意見をいただきました。いくつか紹介しますと、以下のようになります。

良かった点:実験など目や耳だけでなく体感できることはほかの講義にはなく目新しく記憶に残った。

悪かった点:地球温暖化によるデメリットだけを上げておりメリットをあげなかったのは、メリットがないのかあえて出さなかったのかという点。

自転車を使って消費電力の違いを見たり、グラフがあって、内容も具体的だったので、全体を通して分かりやすいものでした。

この授業を受けていない方々にも聞かせるべき授業だと思う。

自分たち世代が原因で地球環境が壊れ、未来の世代の人々を苦しめたくないと思った。

5. 終わりに

アンケートによると、気候正義という考え方はまだ認知度が低いという結果でした。また、地球温暖化問題を身近に感じている方がほとんどであるにもかかわらず、パリ協定の目標の達成に悲観的なイメージを持っている方が多いという結果にもなっています。8割近い方が講義で考え方が変わったと回答してくださったので、おそらく気候変動問題についてより関心を持つ方向に変わってくれたものと信じています。将来の社会をどういうものにしたいのか、どういう環境にしていきたいのかを長期的かつ多様な観点で議論するきっかけとなるような講義にできればさらに良いと思います。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP